大会最終種目の男子1500メートルを走る選手たち。間近で観戦する人たちの興奮も最高潮となった=世田谷区立大蔵運動公園陸上競技場で2024年7月27日、藤井達也撮影

 選手たちが目の前を駆け抜ける。空気を切り裂くような風を感じ、必死に繰り返す呼吸音が聞こえる。全身で感じる陸上競技大会。それが「On Track Nights:MDC」だ。

 MDCは「ミドルディスタンス・サーキット」の略で、日本グランプリシリーズにも登録される「中距離」の公認レース。2021年に始まり、今年は7月に大蔵運動公園陸上競技場(東京都世田谷区)で開催された。

 陸上競技は100メートルやマラソンが注目されがち。その中でMDCは中距離種目を盛り上げようと、「日本新記録には賞金100万円」などの企画を打ち出してきた。今年は人気のスポーツブランド「On」が世界5都市で開催してきた陸上イベントと共催し、パワーアップを図った。

 いつもは静かに選手を見守る陸上競技場も、この日はドレスアップ。緑色に光るトンネルがトラックに設置され、フィニッシュではスモークを噴射した。各種イベントが開催された中央のフィールドに渡る橋が架けられ、出場者も入場客も大会を楽しんだ。

 日本記録更新を目指す公認レースの他に、市民ランナー向けのレースも行われた。初めて参加した中山純子さん(56)は1500メートルに出場。学生時代に選手になるのをあきらめ、今回は「人生でやり残した宿題に取り組む感覚」で練習に励んできたという。レース後には「憧れのトラックを走れて楽しかった。陸上に思いを寄せている人たちの仲間になれた」と笑顔を見せた。

 主催した陸上チーム「TWOLAPS TC」の横田真人代表(36)も「本当に良い大会を作れた。一旦は100点と言っていいと思う」と胸を張る。

 来年9月には、東京で34年ぶりに世界陸上が開催される。しかし、陸上に携わる人の多くが、競技に対する注目度の低さへの危機感を口にする。一方で、今回の大会が示したように陸上競技が持つ魅力は多い。横田さんは「今回はこの競技場サイズで盛り上がりの密度を高められた。ここからは、楽しんでくれた経験を広げていけるように続けていきたい」と話した。【藤井達也】

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