陸上 女子やり投げ決勝(10日・フランス競技場)
北口榛花=65メートル80(1位)
最終6投目での逆転は北口の代名詞になっていたが、この日は最初から強かった。「いつもは6投目までちょっとのんびりしているが、きょうは絶対に1投目からいく」
右腕を思いきり引いて放たれたやりは高いというよりも、鋭く伸びるような軌道を描く。65メートルを超えたあたりで突き刺さったのを見届け、小さく拳を握った。
1投目でシーズンベストの65メートル80。「(他の選手たちの)プレッシャーになったのであれば、狙い通りだなって」。最初から好記録をマークすることで、間違いなく主導権を握った。
先行逃げ切りの展開に持ち込むと、以降は誰も寄せ付けなかった。北口自身も2投目以降、記録は伸びなかったが、泰然としていた。「抜かれたとしても『自分は上を目指す』という気持ちだった」
自分を見失わないのも北口の良さだ。冬場に国内で行ったトレーニングでも過度なウエートトレーニングで体が硬くなることを避け、登山などで持久力を高めることを優先した。「私の場合(体に)柔らかさがないと、高さのあるやりが出ない」
師事するチェコ出身のダビド・セケラク・コーチとの共通認識は「自分の動かしやすい体に近づける」こと。黙々と練習を続けるよりも、試合に多く出ることで感覚を研ぎ澄ます。五輪前最後の実戦だった7月のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で4位に終わっても焦らず、この舞台での躍動だけを思い描いてきた。
初出場の東京五輪では左脇腹の痛みを抱えながら臨み、12位だった。大事な大会にコンディションを整える必要性を再認識し、現在は栄養士に海外の練習に同行してもらうことも。以前は外食で体調を崩していたこともあったが、バランスの取れた食事で「土台」作りも怠らなかった。
競技への高い意識を備えた26歳は「(優勝を)目指していた試合で勝つのは簡単なことではないので、すごくうれしい」。
会場のフランス競技場には、金メダリストにのみ打ち鳴らすことを許された鐘が設置されている。女子やり投げ、そして日本選手で初めてその音を響かせたのは金メダルが有望視された北口だった。【パリ岩壁峻】
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