パラアスリートが可能な限り公平に競うために欠かせない「クラス分け」。本来は多様できっちりと区別できない障害を、種類や程度によって区分けする。近年、その重要性は増しており、日本パラリンピック委員会(JPC)は今月、国内外の情報を集めて戦略的に活用する「JPCクラス分け情報・研究拠点」を立ち上げた。競技団体のサポートや選手らの教育に力を注ぐ。(兼村優希)

◆ナショナルトレセンで英文を読み込む担当者たち

 東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)イースト。会議室2部屋分をつなげた一室に事務所を構えた。開所から約2週間がたった今月半ばに訪れると、担当者らがパソコンの前に座り、クラス分けに関する英文のウェブページに向き合っていた。英語や海外のクラス分け事情に詳しい職員3人をそろえ、既に競技団体などからも相談がいくつか寄せられているという。

拠点の事務所で業務にいそしむ井土祐樹クラス分けマネージャー(手前)ら=東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターイーストで

 クラス分けは競技ごとに基準が異なり、車いす選手でも、卓球なら5クラスに分かれるが、トライアスロンなら2クラスのみと違いがある。競泳では、身体障害と知的障害で計14のクラスがあり、泳法によってカテゴリーが変わるなど細分化されている。  どんな障害が競技のどのクラスに当てはまり、選手がより活躍できるかを見極めるには、深い専門知識が求められる。だが国内の競技団体は規模によって人員不足の課題を抱え、随時行われる英文での国際的なルール変更に対応しきれないところも。拠点の責任者の井土祐樹クラス分けマネージャーは「まずは競技団体の情報収集や整理を支援することが自分たちの役割。安心してスポーツに取り組める体制を整えたい」と話す。

◆海外では障害を重く見せる事例も…

 JPCの河合純一委員長は「競技力が上がってパラスポーツの注目度も高まり、メダル次第でお金が動く国も出てきた。それが本当に公平になされているかという点で根幹をなす部分だからこそ、クラス分けにしっかり取り組んでいくことが急務」と強調する。海外では、自分が有利になるように故意に障害を重く見せる事例も問題になっている。医療従事者らが担う専門家「国際クラス分け委員」の育成や能力向上も推進する考えだ。

開所式で記念撮影する河合純一JPC委員長(左上)、パラ競泳の鈴木孝幸(左下)、車いすアスリートの土田和歌子(右下)ら=いずれも東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターイーストで

 アスリート側の教育も柱の一つ。英国の大学院でクラス分けを研究し、この拠点立ち上げにも協力したパラ競泳の鈴木孝幸(ゴールドウイン)は「とても乏しい知識の中で(クラス分けを)受けている選手が多い。最初は想定よりも軽いクラスにクラス分けされてしまうというケースも何個か耳にしている」と指摘。JPCが2年前にパラ強化選手188人を対象に行ったアンケートでは、71%がクラス分けの制度変更や国内外の最新動向について「正確な情報提供が最も重要な支援」と回答した。  5月には国際パラリンピック委員会(IPC)が2025年から適用される新しいクラス分け規定を公表する見通しで、この周知も大切な業務だ。河合委員長は「今年がJPCのクラス分け元年。ハブ(拠点)と呼ばれるにふさわしい機能を担っていきたい」。山積みの課題に、地道に向き合っていく。

 クラス分け 公平に競技を行うため、同程度の障害がある選手を同一のグループに分類する仕組み。パラリンピックの国際クラス分けは専門の資格を持つ国際クラス分け委員が審査する。陸上や競泳では、身体、視覚、知的障害に分けた後、障害の部位や程度によって細分化する。車いすラグビーなど球技では障害の重さで各選手に点数をつけ、チームの合計点数を一定とすることで、公平さを担保する。

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◆陸上も、ボッチャも…振り回されてきた選手たち

 クラス分けにはこれまで多くの選手が振り回され、時には悲劇を生んできた。2021年の東京パラリンピックでは、コロナ禍による国際大会中止の余波で、パラ直前に異例のクラス分けが行われた。陸上の車いす種目でメダルが有力だった伊藤智也(バイエル薬品)はより障害の軽いクラスに変更になり、予選敗退で涙をのんだ。

東京パラリンピックの陸上男子車いすT53クラスの400メートル予選で力走する伊藤智也=2021年8月、国立競技場で

 昨年12月にはボッチャのアジア・オセアニア選手権で運動機能障害BC4男子のエース内田峻介(大体大)がパラリンピックの参加資格を満たさない障害(NE)と判定された。パリの有力候補で、今月末にカナダで開幕する国際大会で再度受けるクラス分けに望みをかける。  19年にトライアスロンの国際大会で障害の軽いクラスに変更された経験のある土田和歌子(ウィルレイズ)は「私は脊髄損傷だけど、自力で入水できるような選手たちと一緒に戦うクラスに行ってしまい、非常に落胆した」と振り返る。競技団体によっては、国内と国際のクラス分けルールで食い違う部分もあり、拠点はその改善にも取り組む。 

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