陸上男子100メートル準決勝3組、4位でフィニッシュしたサニブラウン・ハキーム(左から2人目)=フランス競技場で2024年8月4日、平川義之撮影

 パリ・オリンピック第10日は4日、陸上男子100メートル準決勝が行われ、2023年世界選手権6位のサニブラウン・ハキーム(東レ)は日本歴代2位の9秒96をマークしたが、決勝進出を逃した。

 最後は上体を前傾させながらフィニッシュした。「もう1ミリでも速くゴールに入らないとと思った」からだ。自己ベストを5年ぶりに更新する9秒96をマークしても、組4着で全体でも10番目。日本勢92年ぶりの決勝への扉は、サニブラウン・ハキームに重く閉ざされた。

 「足りないっすねえ……。もっと行けたなって思います」

 足りない――。進化の兆しが見えたはずの、終盤の「伸び」のことだ。その伸びに定評がある2022年世界選手権王者のフレッド・カーリー(米国)ら上位2着の選手はぐんぐん勢いを増したのに対し、サニブラウンは引き離されていった。

 「70メートルくらい(から)かなと思っていた」という勝負どころで脚がうまく回らず、テンポが停滞したという。レースの感触はよかったはずなのに、詰めが甘かったことを悔いた。

 男子100メートルで世界選手権2大会連続(22、23年)で決勝に進出しているサニブラウンは、世界のトップスプリンターと対峙(たいじ)できるだけの経験を着実に積んできた。23年大会は準決勝で自己タイ記録の9秒97をマーク。組2着で決勝へ「一発進出」した。

 進化は、データでも裏打ちされていた。

 サニブラウンの特徴であるストライド(歩幅)の大きさは、100メートルで初優勝した17年日本選手権(総歩数44・7歩、最高速度時のストライド2・46メートル)の値が指標になっていた。同年の世界選手権を制したジャスティン・ガトリンさん(米国)に匹敵するものだったが、日本陸上競技連盟の関係者によると、23年世界選手権準決勝ではストライドが2・5メートル以上に伸びていた。

 さらに23年の走りについて関係者は「55メートル付近で最高速度に達している」と、若干ではあるがトップスピードに達するのがこれまでより後半にずれた可能性に着目。フィニッシュ近くまで加速できると、速度の落ち幅が少なくなる。それが、終盤の伸びにつながっていた。

 しかし、肝心の五輪の舞台で成長の一端を示せなかったのがもどかしい。サニブラウンは、また「1ミリ」というフレーズを使った。

 「1ミリ、1ミリですけど前進はしている。でも悠長なことは言っていられない。ほかの選手たちはもっと前進していて、(このままだと)一生追いつけない」

 100メートルの五輪ファイナリストへの挑戦は、28年ロサンゼルス五輪に持ち越された。

 レース直後に4年後のことを問うと、さすがに「ゆっくり考えようかな」と苦笑いを浮かべた。ただ、本人も自覚しているように立ち止まっている暇もない。【パリ岩壁峻】

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