「甲子園優勝を目指す」と意気込む白樺学園の選手ら=芽室町の白樺学園高グラウンドで2024年7月27日午後0時45分、後藤佳怜撮影

 新監督の下に集まった新入生はわずか10人――。最終学年となった昨秋は道大会1回戦で敗れ、今春はまさかの地区大会敗退を喫した。「人数も実力も足りない」といわれ続けた「谷間の世代」。だが、前向きにチームを引っ張った3年生の底力が、最後の夏に甲子園出場を引き寄せた。

 「自分の代は10人しかいないのか。やばいかも……」。札幌・北都中から進学した副主将の宮坂拓実(3年)は入学時、そんな不安を抱いていた。

 白樺学園は、夏3度、春1度の甲子園出場経験がある。例年、1学年20人前後の選手層を維持してきたが、宮坂らが入学した2022年度は監督交代のタイミングが重なり約半数に。同年に部長から就任した亀田直紀監督(37)は「スカウティングに苦労した世代だ」と打ち明ける。

 少人数だからといって、団結力が強い訳ではなかった。昨夏は北北海道大会で4強入りしたが、主力は当時の3年生。世代交代して迎えた秋季道大会は、初戦で最大5点差を逆転されサヨナラ負けを喫した。

 「試合も練習もまとまりがなく、やる気があるのか分からなかった」と亀田監督。「このままじゃ次の道大会も初戦負けだ」。厳しい言葉で奮起を促した。

 選手は冬場に体作りに励み、投手の半沢理玖(3年)が球速を7キロ伸ばして143キロに達するなど成長。だが、チーム全体は成熟しきれなかった。

 迎えた今春の十勝地区大会では、3回戦で延長11回タイブレークの末に帯広三条に2―3と逆転負け。左打者が多い打線が、好投する相手左腕を攻略できなかった。

 亀田監督が言及した「道大会初戦」にすらたどり着けなかったことに、選手たちは大きなショックを受けた。「自分たちが甘かった。恥ずかしい」と宮坂。3年生10人は緊急ミーティングを開き、それまでに無い深刻な雰囲気で話し合った。

 ほぼ全員が暮らす寮の生活態度から変える、練習での声かけから甲子園を意識する、最後の夏に亀田監督に結果で恩返しする――。10人が団結して決めた約束だ。主将の藤原悠楽(同)が明るく締める。「道大会がない分、練習たくさんできるじゃん。夏は勝とう」

 チームは大きく変わっていった。3年生の熱意は下級生にも伝わり、守備練習でミスが出ると「そんなんじゃ甲子園行けないぞ」と学年問わず厳しい言葉が飛び交った。

 今夏は先発メンバーの過半数を常に2年生が占めたが、「メンバー外の3年生も含めてチームを引っ張ってくれたので、人数の多い自分たちも先輩を支えようとまとまることができた」と大西遥斗(2年)。試合を経るごとに守備の連携や打線のつながりが向上した。

 北大会決勝では半沢が計8回を2失点と粘投し、打っては九回に浅野壮音(3年)が決勝の右前適時打。投打ががっちりかみあい、前回優勝のクラーク記念国際を退けた。亀田監督は「怖い物知らずな2年生がのびのびと力を出せた。それは3年生が核になってくれたから」と10人をたたえる。

 夏の甲子園出場は9年ぶり。春季地区大会敗退という「崖っ縁」から周囲を前向きに鼓舞し続けた藤原は「挑戦者の気持ちで勝ちに行く。『谷間の世代』の本気を見せたい」と燃える。10人で育んできたこのチームを、「最弱」とはもう呼ばせない。【後藤佳怜】

ベンチ入りメンバー

1投 半沢 理玖③

2捕 浅野 壮音③

3一 岩部 大翔②

4二◎藤原 悠楽③

5三 福原 和紗②

6遊 上  一颯②

7左 冨沢 悠斗②

8中 川島 陽琉②

9右 大西 遥斗②

10補 宮坂 拓実③

11〃 神谷 春空②

12〃 上林 律貴③

13〃 鈴木 涼太②

14〃 桜庭  翔②

15〃 松本 勇輝③

16〃 玉手 瑛斗①

17〃 佐々木悠成③

18〃 三本木大翔③

19〃 阿部 匠真③

20〃 金井  颯③

監督 亀田 直紀

部長 東 虎之介

※数字は背番号、丸数字は学年、◎は主将

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