三振に倒れ、渋い表情の阪神・大山。昨季の日本一に貢献した主砲は、打率1割台でいまだ本塁打なしと不振にあえいでいる=10日、甲子園球場(水島啓輔撮影)

シーズンが開幕し、各球団とも他の5球団との対戦が一巡したプロ野球のグラウンドで、感覚的な異変を訴える声がとても多い。複数のコーチや選手は異口同音に今季の「ある傾向」を指摘するのだ。

昨季と同じボール?

「ボールが飛ばない。打たれた投手が『あっ、ホームランや』と思って振り返ると外野フェンス前でボールが落ちてくる、と喜んでいる。逆に打者は『これは入ったやろ』と思って打球を追っていると全然いかない、と嘆いている。選手たちからは『ホンマに昨季までと同じボールか?』と疑う声も聞こえてくる。飛ばないボールに戻したという話も聞かないし、感覚的な話なんだけど」

空振り三振に倒れる阪神の大山悠輔。今季は打率1割台、0本塁打と極度の不振にあえいでいる=11日、甲子園球場(渡辺大樹撮影)

「今季はやたらにストライクゾーンが広い気がする。打者が悠然と見送った投球が『ストライク!』と判定されて、啞然茫然(あぜんぼうぜん)のケースが何度もある。球審の手が上がるケースが多いので、どうしても打者は以前の感覚よりもストライクゾーンを広げて打つしかない。当然、厳しいボールにも手を出さざるを得ないので安打の確率は下がる」

極端な「投高打低」

一つの球団の感想ではなく、複数球団の関係者が話した言葉だ。「飛ばないボール」と「ストライクゾーンの拡大」-。あくまでも現時点では感覚的な問題としか言いようがないが、シーズン序盤のさまざまな数字や順位に影響している。

まずチーム防御率。昨季2点台だったのは2・66の阪神を筆頭に2・73のオリックス、2・93だった西武の3球団だけ。他の9球団は3点以上だった。ところが今季は防御率3点台がDeNAと日本ハム、楽天の3球団だけで、他は2点台以下だ。

試合に勝ち、選手を迎える中日の立浪和義監督(73)=16日、バンテリン(沢野貴信撮影)

セ・リーグ2位の巨人は1・86で、12球団で唯一の1点台。セ首位の中日、パ首位のソフトバンクはともに2・26だ。逆に、チーム本塁打を2ケタに乗せているのは阪神だけ(10本塁打)。まだ4本塁打しか記録していないチームがセ・パ3球団あり、完全に「投高打低」の傾向だ。

NPBの思惑

飛ばないボールが話題になったのは、統一球が導入された2011年からの2シーズンだった。それまでは球団によってさまざまなメーカーのボールを使用していたが、12球団でメーカーを統一。その際に反発係数が抑えられているのではないか?と問題になった。

13年からは元通りに飛距離が出るように。まさか12年前のボールを倉庫から引っ張り出して再使用しているとは思えないが…。野球で飯を食っている人たちからすれば、笑い話では済まない〝疑惑〟だ。ストライクゾーンが拡大したのではないかとの感想も、打者の被害妄想の類いなのか…。

ただ、前評判を覆してリーグ首位を快走している中日・立浪監督は、オープン戦の時から「飛ばないボール」の兆候を感じ取っていた、という話がある。もともと、投手力には定評があったが、今季はより守備重視の選手起用と采配で臨み、17試合を消化して10勝5敗2分けの貯金5。一方で昨季、12球団最多の494四球を選び、同じく12球団トップの555得点を記録した阪神は8勝8敗2分け。チーム打率は両リーグワーストの2割7厘と貧打にあえいでいる。ストライクゾーン拡大?の一番の〝被害者〟だというのは、開幕ダッシュに失敗したチームに対する虎党のいらだちか…。

今季、17回⅓投げて自責点ゼロの中日・涌井。快進撃の原動力となっている=17日、バンテリン(沢野貴信撮影)

一説によると、投高打低の傾向の裏には、試合のスピードアップを目指す日本野球機構(NPB)の狙いが隠されている-という噂もある。さて真相はどうか。

野球を見る側から言わせてもらうと、投手戦ばかりでは、ちょっと味気なくてビールが進まない…とはいえる。

=記録は18日現在

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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