パリ・オリンピックで28日に初戦を迎えるバレーボール女子日本代表は、盗撮をブロックする透けないユニホームを着用している。性的な意図を持って撮影する「アスリート盗撮」が社会問題となる中、赤外線カメラ対策を講じた新たな取り組みが始まっている。
盗撮を防ぐ「透けない生地」は大手スポーツ用具メーカーのミズノが住友金属鉱山や、材料を加工する技術を持つ共同印刷との合同で開発した。今回のパリ五輪日本代表で、バレーボール以外に卓球女子やアーチェリーなど七つの競技団体が採用した。
透けない秘密は生地に編み込まれた、特殊な鉱物を練り込んだ糸にある。開発を担当した田島和弥さんは「近赤外線の吸収に優れた鉱物を糸に練り込んだことで、赤外線カメラから出る赤外線をウエアが捕えられるようになった」と説明する。
ミズノは、ユニホームが透けない機能の開発に約20年前から乗り出した。従来の対策では、生地そのものに金属を吹き付ける手法などがあったが、生地が硬くなったり、汗を吸収する力が弱まったりした。パフォーマンスの維持と透けない機能の両立が課題だった。
そこで特殊な鉱物に着目。近赤外線の吸収によって、プレー中に体から放出された熱も吸収する。はっ水と蒸発を促す糸も同時に織り込んだため、今回の生地は従来の製品よりも機能性が向上した。
実際にウエアを触らせてもらった。肌触りはなめらかで、通気性も良く、鉱物を練り込んだ糸を使っているようには思えなかった。だが、複数の生地の下に図形の描かれた画像を置き、それぞれどの程度透けないか確認する実験の画像を見せてもらうと、今回の生地は、赤外線カメラを通しても図形は見えにくくなった。
この生地を使った商品の販売も始まっており、2万円台のウオームアップ用のジャケットや卓球女子代表が着用する試合用ユニホームとスカートなども販売されている。
アスリート盗撮を巡っては、2021年の東京五輪では、女子体操のドイツ代表の選手が性的な視点で見られることへの抗議の意味も込め、レオタードではなく足首まで隠れる「ユニタード」で競技会場に現れた。競技団体も競技場での撮影の制限を設けるなど対策を講じているが、被害は後を絶たない。
田島さんは「(アスリート盗撮の中には)赤外線盗撮のように、認知されていないが、実際に被害に遭った人もいる。こうした被害があるということが、世の中に浸透することで、盗撮しにくい環境にもつながることを今後も意識していきたい」と語った。【高橋広之】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。