馬運車に乗って移動する競走馬=2024年7月11日、井内利彰さん撮影

 春のGⅠシリーズが終了し、栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)も完全に夏モード。とはいっても、夏休みがあるわけではなく、週末に向けての調教はいつも通りに行われている。調教は馬を鍛えるために行われるもの、という認識を持っている人は多いと思う。どんなスケジュールなのか知らない人もいると思うので、紹介しておきたい。

 月曜日は馬も馬房から出ることなく、一日中まったりと過ごし、火曜日から調教が始まる。この日は休み明けということもあり、ゆっくりと体を動かす程度。水曜日か木曜日に「追い切り」と呼ばれるレース前の強めの調教をこなす。翌日は軽い運動で済ませ、土曜日もしくは日曜日のレースへ出走という運びになる。

 1日の食事(飼い葉)は午前と午後に1回ずつの計2回か、午後が2回になれば計3回。競走馬は草食動物だが、牧草だけで十分なエネルギーを摂取できないので、燕麦(えんばく)などの穀類を主にサプリメントや配合飼料にも加えて、アスリートとして必要な栄養バランスを整えている。

 通常はこのような日々を過ごすが、夏になると函館、福島、小倉といったトレーニングセンター(トレセン)からは遠い場所でのレース開催となる。この中で栗東から最も遠い函館への移動は23時間ほどかかる。馬運車に乗り、陸路で青森まで行き、フェリーに乗って3~4時間かけて北海道へと渡る。現在の馬運車は冷房を完備しているので、暑さに対応できるが、決して広い空間ではない。丸1日、閉じ込められた状態になるので、馬によっては体調を崩すこともある。体調を崩さなかったとしても、疲労感があるのは人間と同じだ。

 そのため栗東の厩舎(きゅうしゃ)にいる馬が函館でレースをする場合、1、2週間前に輸送し、レースまで数日滞在する。この間、調教を行うのはトレセンにいる時と同じだ。レースで使用する芝コースやダートコースを使って調教する。また、函館競馬場はダートコースの内側にウッドチップコースがあるので、トレセンに似た環境で調整できるメリットがある。

 今週末の函館記念。6月中旬から函館に滞在しているアウスヴァールの逃げに注目したい。(競馬ライター)

いうち・としあき

 1976年生まれ。東大阪市出身。高校の同級生の影響で競馬に興味を持った。92年の菊花賞(GⅠ)を自身と同じように小柄なライスシャワーが制し、その魅力に取りつかれた。大阪経大卒業後、競馬予想サイトの運営会社勤務を経て、フリーライターに。

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