子どもたちに投球動作を指導する森糸法文監督(手前左)。プロ野球・元日本ハムの広瀬哲朗さん(右から3人目)もコーチを務めている=東京都江戸川区で
◆指導者資格を持つコーチ7人で運営
低学年中心の午前練習。「ナイスボール」。体験に訪れていた約10人の未就学児に投げ方を指導していた森糸法文監督(42)の声が響く。グラウンドの一角にあるワンボックスカーは、送迎などに使うチーム車両。荷物運搬用の軽トラックを含め、計4台を所有している。飲み物は持参してもらうが、補充用の飲料はチームが用意。会計ソフトやウェブ決済を導入し、保護者が練習に来なくても活動費などを支払える仕組みも整えている。選手の送迎や道具の運搬に使用するチーム車両=城東ベースボールクラブ提供
選手の指導や送迎車の運転など、チームの運営は基本的に森糸さんら常任コーチ7人が担当する。全員が公認指導者資格を持ち、ボランティアで活動。2021年にチームを設立した森糸さんは「選手や保護者にストレスや負担をかけない運営をしてきたからこそ今がある」と語る。◆「野球が選ばれない」理由を考えると
森糸さんは19年までの約10年間、別の少年野球チームで指導に携わった。その間に学童野球の競技人口はサッカーに抜かれた。「野球が選ばれなくなってしまったと常々感じていた」といい、敬遠される原因を改めて考えた。 注目したのは保護者の負担だ。選手の指導をはじめ、運営面でも「保護者も手伝って当たり前」という風潮は今なお根強く残る。そこで新チームを立ち上げるにあたっては、保護者がお茶当番や会計係などをしなくても円滑に活動できる体制を構築した。全日本軟式野球連盟は23年に全国の支部に対し、チーム活動への保護者の協力を強制しないよう求める通知を出している。◆「野球漬け」にしない 練習の出席確認なし
小学2年生の長男が参加している女性(41)は夫と共働きで、未就学児の次男もいる。長男が通う小学校を拠点にするチームもあったが、「(保護者の)お手伝いありきだった。育児との両立はまず無理」。希望に沿うチームを探す中でクラブを知った。「保護者がするのは集合場所への送り迎えぐらい。負担は感じないし、子どもも野球を楽しめている」と話す。守備練習をする城東ベースボールクラブの選手たち。東京都葛飾、江東区など江戸川区外から通うメンバーも多い
チームは野球を楽しむこととレベルアップの両立を目指しており、練習にも工夫を凝らす。習熟度によって選手を分け、レベルに応じたメニューを組むほか、手作りの教材を使った座学で競技への理解を深めてもらっている。昨秋の都大会でベスト4に進出するなど、着実に結果を残している。 練習の出席確認はせず、途中からの参加や退出も自由。メンバーの約3割は学習塾やサッカー、水泳などの習い事を掛け持ちしている。「多様性を尊重する社会に対応していかないといけない。朝から晩まで野球をやらなくてもいいじゃないですか」と森糸さん。社会の変化に合わせ、学童野球チームもあり方を変えつつある。(酒井翔平) ◇ 野球の競技人口が減少する中、直面する課題や関わる人々の姿を通し、日本野球の未来を探る「野球のミライ」は、随時掲載します。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。