第106回全国高校野球選手権の東東京大会(東京都高野連など主催)で、東京大野球部出身の監督が率いる私立校同士が、13日に対戦する。両監督は、東京六大学リーグで「弱小」とされる東大で強豪校を倒す戦略を語り合ってきた間柄。「指導の原点は東大」と語る2人が、夏の甲子園出場をかけて高校野球の舞台で相まみえる。
東大OBの指導者、少なく
駿台学園高(東京都北区)の三角裕監督(64)と、開成高(荒川区)の青木秀憲監督(53)。東大野球部の卒業生は有名企業などに進むことが多く、教員として学生野球に携わる指導者は少ない。
2人は約30年前から親交があり、互いに敬意を持っている。年齢差はあるが、顔を合わせれば野球談議を交わしてきた。三角監督は「斬新なアイデアの持ち主」、青木監督は「野球エリートではない生徒の才能を見いだす眼力と育成力は卓越している」と、それぞれを評価する。
三角監督は、東大の現役時代は1番打者として活躍した。卒業後は地元・埼玉県の教員採用試験に合格し、1984年に開校初年の県立伊奈学園総合高に赴任。創部からわずか6年後の90年に、春のセンバツ出場を果たした。
指導力を買われた三角監督は、97年に東大野球部の監督に。同年の秋季リーグ戦で最下位を脱し、監督を務めた8年間で計19勝を挙げた。
指導の方針は、選手を型にはめず個々の能力を引き出すこと。センバツ出場時の伊奈学園のエース右腕は、上手投げから横手投げに変えたことで頭角を現した。東大では「賭けに出なければ勝てない」と考え、長打力のある打者の育成に注力し、犠打のサインはほとんど出さなかった。
駿台学園の片野壮一郎主将(3年)は「監督の指導方法はレベルが高い。細かく説明してもらって理解できるようになった」と笑顔を見せる。
一方の青木監督は、東大大学院修了後の99年、全国でも屈指の進学校である開成の監督に就任した。東大では1年生の秋からマネジャーで、「普通の方法では格上の学校に勝てない」と秘策を考え続けた。たどり着いたのは「爆発力のある攻撃」。その方針を今も貫いている。
開成では他の部活動とグラウンドを共用するため、グラウンドを使った全体練習は週1回だけ。貴重な機会なのに、ノックやバント練習は一切せず、ひたすら打撃練習に費やす。青木監督は「犠打で手堅く得点につなげ、守り勝つ野球ができるのは強豪校だけ。弱小校はエラーや四球もあるため、いかに得点できるかが鍵を握る」と語る。全体練習以外の日は筋力トレーニングに時間を割き、あくまで打撃力の向上を目指す。
試合中もサインは出さない。サインが選手のプレッシャーになり、本来の打撃ができなくなると気づいたという。チーム一の強打者には2番を打たせる。1番打者が出塁できなくてもチャンスを作れるし、下位打線から出塁すれば好機で打順が回ってくる可能性が高いと考えるからだ。
開成は2005年の東東京大会ではベスト16に入った。三角監督は「厳しい練習環境なのに、常識にとらわれない指導で結果を出していて素晴らしい」とたたえる。
「東大野球部にもエネルギーを」
両校の対戦はJPアセットスタジアム江戸川(江戸川区)での2回戦で、13日午前9時開始予定。監督としては公式戦で初の対戦となり、三角監督は「楽しみだけど相手がどうこうというのは意識せず臨む」。青木監督は「東大OBが本気で野球に関わっていることを見せたい。この対戦が東大野球部にとってもエネルギーになれば」と意気込んでいる。【長屋美乃里】
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