ひょうによって傷がついた梅の実=和歌山県みなべ町で2024年4月9日午後0時10分、和歌山県提供
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 全国シェアの6割超を占める和歌山県産の梅が、2024年は記録的な不作に見舞われそうだ。県やJAなどによる24年産の梅の生育調査で、地域によっては実の数が過去10年の平均と比べて3割以下にとどまっており、不作だった20年産も下回るなど危機的な状況に陥っている。日本一の梅の産地で何が起きているのか。

 県では毎年4月と5月、地域ごとに梅の着果状況を調べている。県日高振興局やJA紀州などでつくる「日高果樹技術者協議会」は4月15~18日、市町村別で全国1位の収穫量を誇るみなべ町など1市3町の計118園で主力品種の南高梅の生育状況を調査。同町を含む主産地の1枝あたりの実の数は平均2・1個で、過去10年の平均と比較して29%にとどまった。不作により県の全国シェアが58%に落ち込んだ20年は4・7個で、24年はその半分以下だ。

 不作の一因として考えられるのが暖冬だ。20年産の不作に危機感を覚えた県果樹試験場うめ研究所は19年度が暖冬だったことに着目。20年12月から21年2月にかけ、ビニールで覆って人工的な暖冬状態を作った梅の木と何もしなかった木について開花との関連を比較。暖冬状態では雌しべが短かったりなくなったりする「不完全花」が多くなった。

 23年12月から24年2月の気温は20年産の時よりも高く、不完全花は例年の2倍程度だった。同研究所の綱木海成研究員は「花が不完全だと受粉できず、必然的に実もならない」と不作の理由を説明する。

正常に咲いた梅の花(左)と雌しべがない「不完全花」=2021年2月2日午前10時10分、和歌山県提供
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 田辺市の山崎昂幸(たかゆき)さん(30)の梅農園「農家のやまさき」でも不完全花が多く見られたといい、梅の開花は例年より1カ月ほど早い1月末だった。山崎さんは「地域では1月に咲くと不作、3月に咲くと豊作と言われてきた。覚悟はしていたが予想以上に実がならない」と嘆き、収穫量は例年の2割ほどと見込む。例年なら4月から青梅の予約販売を受け付けていたが、24年は出荷量や価格が見通せないことから6月に先送りせざるを得ないという。

 「何十年に1度クラスの記録的な不作」とされた20年産からわずか4年後に更なる不作となりそうで、山崎さんは「梅一本で今後もやっていけるか不安になる。温暖化を見据えて他の作物の栽培も考えていかないといけない」と話している。

 みなべ町の梅干し製造会社「うめひかり」の広報担当者も「温暖化が止まらなければこの状況が毎年続くことになる。和歌山の梅業界にとっては危機的です」と訴える。同研究所も暑さに強い台湾の品種と南高梅を掛け合わせるなど品種改良の研究を進めているが、商品化には時間がかかるという。

 加えて、県内の梅産地では3月にひょうの被害を受け、県によると約21億円の被害が出ている。日高果樹技術者協議会の担当者は「不作とひょうの被害のダブルパンチで梅農家にとっては厳しい状況。残っている実が順調に育ってくれるよう願うしかない」と話している。【駒木智一】

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