弾道ミサイルを探知・追尾するXバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬通信所が2014年12月に京都府京丹後市丹後町で稼働を始めて26日で10年になる。基地“受け入れ”の際、中山泰市長は「住民の安全と安心の確保が大前提」と繰り返し表明したが、現実はどうなってきたのか。近畿で唯一の米軍基地の町の10年を検証する。
「もうすぐ基地の金が底を突き、宇川診療所への支援が終わる。これから診療所は大丈夫だろうか」。Xバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬通信所(京丹後市丹後町)の地元住民は不安そうな表情を見せた。
宇川診療所運営に使われてきた基地の金とは何か。特別措置法(駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法)で、在日米軍の再編に伴って影響を受ける市町村に国から交付される「再編交付金」のことだ。「アメとムチで基地負担の受け入れを迫る手法」との批判もあるが、市は5年にわたって受け取ってきた。
防衛省によると、2014年の米軍基地配備に伴い、再編交付金を含む計38億2000万円の補助金を京丹後市に交付、既に全ての補助事業は終了した。
このうち、再編交付金は32億1199万円で、市をこれを基金に組み入れ、小中学校のパソコンやネットワークサーバーの更新、市民の総合検診、間人漁港の荷さばき場や公民館整備などさまざまな事業に充ててきた。市によると、現在の基金残高は1億円ほどで、26年度には使い切る。
宇川診療所運営事業もその一つだった。基地がある宇川地区唯一の医療機関である。
宇川地区(約1000人)は過疎・高齢化が進み、人口減少が深刻だ。65歳以上の高齢化率は52・14%(24年9月30日現在)に上る。最近、地区にひとつだけあったスーパーやガソリンスタンドも撤退。今、宇川小学校の閉校を巡り揺れている。同じく過疎が進む近隣の自治体は相次いで診療所を廃止しており、宇川診療所の存続は住民の切実な願いだ。
市によると、再編交付金による宇川診療所運営事業は25年度に終了するが、その後は一般財源を運営事業に充てる予定という。
再編交付金事業のほか、基地配備に伴って「民生安定助成事業」も実施されている。京丹後市の場合、旧宇川中や旧溝谷小のヘリポート設置、救急車や消防車、除雪機械などの購入に充てた。また、「障害防止事業」として尾和用水路改修事業費に5億3200万円が交付された。
府関係では、「民生安定助成事業」で基地周辺の府道整備に112億円が投じられる。浜丹後、間人大宮、網野岩滝の3線で、補助率は70%。府によると、これまでに53億円分の工事を執行しており、今後も継続する。
市によると、Xバンドレーダー基地からは固定資産税は徴収できない。その代替として、毎年国から調整交付金(24年度は4560万円)が交付される。
一方、基地に対応する自治体の支出はどうなっているのか。京丹後市の場合、住民説明会開催などの「基地対策一般経費」で23年度までに5600万円を支出した。基地配備に伴い、旧宇川中に基地対策室を新設したが、この支出には正職員の人件費は入っていない。
このほか、市は基地がある袖志、尾和両地区に対し一般財源から計2400万円を交付した。「安心地域づくり交付金」との名目で、基地を抱える両地区の地域振興に役立ててほしいとの趣旨で、毎年使い道の報告を求めている。
04年に旧6町が合併して誕生した市だが、24年度で有利な条件で調達できる合併特例債の適用が終了。「独り立ち」が迫られる中、基地配備による再編交付金が底をつく。最終処分場建設など待ったなしの大型事業が目白押しで、厳しい財政事情に直面している。
地元住民の一人は「一見、自主財源が乏しい京丹後市に基地の大きな金が落ちてきたように見えるが、一時的なもので決して長続きしない。米軍基地がある限り、次々と問題が発生し、対応に金がかかる。補助金に全く見合わない負担だけが続くことになる」と語った。【塩田敏夫】
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