弾道ミサイルを探知・追尾するXバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬通信所が2014年12月に京都府京丹後市丹後町で稼働を始めて26日で10年になる。基地“受け入れ”の際、中山泰市長は「住民の安全と安心の確保が大前提」と繰り返し表明したが、現実はどうなってきたのか。近畿で唯一の米軍基地の町の10年を検証する。【塩田敏夫】
「この法律(重要土地利用規制法)がある限り、一定面積以上の不動産取り引きには届け出が必要です。子や孫の世代までずっと。覚えておいてください」。4月26日夜、京丹後市丹後町袖志地区で開かれた「特別注視区域」についての住民説明会での発言だ。主催した市の中西俊彦総務部長の言葉に「その場の空気は凍り付いた」と参加者は証言する。
袖志地区は、尾和地区とともにXバンドレーダーを配備した米軍基地・経ケ岬通信所の所在地だ。5月15日に米軍基地と隣接する航空自衛隊経ケ岬分屯基地の周辺が重要土地利用規制法で「特別注視区域」に指定されるのを前に、市が尾和地区に続いて住民説明会を開催し、国が出した資料を基に説明した。
重要土地利用規制法は、基地周辺の不動産取り引き、つまり住民の財産にも影響が出る。さらに、「機能阻害行為」が見つかれば刑事罰も科されることになる法律だ。「何が機能阻害行為に当たるのか不明確。阻害行為かどうかを判断するのはあくまで国で、恣意(しい)的運用が本当に心配」「基地の周りを歩いているだけで何をされるかわからないこわさを感じる」と懸念する声が上がっていた。
地元住民は「暮らしにどうかかわるのか。基地があることで降りかかる影響をわかるように説明してほしい」と説明会開催を要求。市によると、重要土地利用規制法を所管する内閣府に説明会開催を求めたが「やらない」との回答だったため、市が独自に説明会を開催することになった。
重要土地利用規制法は、外国資本による土地取得の懸念を背景に2021年に成立した。在日米軍や自衛隊などの施設を「重要施設」と位置付け、その周囲約1キロや国境離島を「注視区域」に指定。区域内の土地・建物の利用実態を調査できるようにした。
自衛隊司令部など特に重要な施設周辺は「特別注視区域」に指定され、一定面積以上の土地売買には氏名や利用目的の事前届け出が義務付けられた。区域内の重要施設の機能を阻害する「機能阻害行為」が見つかった場合、国は利用中止などを勧告・命令できる。命令に従わないと刑事罰が科せられる。国会では、「何が機能阻害行為に該当するか」が議論の焦点となった。
基地周辺の住民にとっては生活にかかわる切実な法律だ。袖志地区と隣接する尾和地区の説明会には約30人が参加した。「基地の周囲1キロが特別注視区域になるというが、うちの田んぼの半分が区域内であとの半分が区域外の場合はどうなるのか」「国は区域内の土地を全部買い上げてほしい」などと次々と質問や意見が出た。
中西総務部長らはできるだけかみくだいて説明しようとしたが、「個別の土地取引についてはこの法律を所管する内閣府のコールセンターに問い合わせてください」と答えるのが精いっぱいだった。
地元住民の一人は「基地がある袖志、尾和をはじめ地元の宇川地区は過疎と高齢化で急激に人口が減っている。そのため、田畑が耕せなくなり、耕作放棄地が急激に増えているのが現実。特別注視区域になったことで、過疎化に拍車がかかることは間違いない」と懸念していた。
説明会に参加した住民は「重要土地利用規制法とか特別注視区域という言葉はほとんど知られていない。都会の人の多くは無関心でしょう。その法律の持つ恐ろしさに気づかないまま、当事者になって初めて切実な問題となる。戦前の治安維持法がそうであったように。今、日本は戦争をするためにあらゆる準備をしている。この法律もその一環だと思います」と語った。
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