「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助さん(当時77歳)を殺害した罪に問われている元妻・須藤早貴被告(28)の裁判員裁判。
先ほど和歌山地方裁判所は須藤被告に「無罪」判決を言い渡しました。
須藤被告は判決を言い渡された瞬間、裁判官の方を見つめ、涙を流し、弁護人がハンカチを渡す場面が見られました。
争点となっていたのは、野崎さんが本当に殺害されたのか、そして殺害されたとして犯人が須藤被告なのかということ。
直接的な証拠がない中、検察側は28人もの証人尋問を実施するなどして無期懲役を求刑し、弁護側は「うすい灰色をいくら重ねても黒にはならない」と無罪を主張していました。
■「紀州のドン・ファン」野崎幸助さん 55歳年下の須藤被告と結婚後約3カ月で死亡
須藤早貴被告(28)は6年前、和歌山県田辺市で元夫で資産家の野崎幸助さん(当時77歳)に覚醒剤を摂取させ殺害した罪に問われています。
野崎さんは地元の中学校を卒業後、金融業や酒類の販売、不動産事業などで成功し、一代で億単位の財産を築きました。
多くの女性と交際してきたことを赤裸々に語り、スペインの伝説上のプレイボーイになぞらえて、「紀州のドン・ファン」と自ら称していました。
2018年、76歳の時に、55歳年下の須藤被告と結婚。
しかし、結婚からおよそ3カ月後、野崎さんは自宅で死亡した状態で見つかりました。
■取材には殺害否定も 死亡から3年後に須藤被告が逮捕・起訴される
死因は「急性覚醒剤中毒」。
他殺なのか、自分で覚醒剤を服用したことによる事故死なのか。
疑惑の目は、事件当時、家にいた須藤被告に向けられ、FNNの単独取材では殺害を否定していました。
【須藤被告(2018年)】「本当に殺してないです。社長の前の女の人が覚醒剤をやっていたと、家政婦の方から聞いています」
捜査は難航し、事件から3年後の2021年、野崎さんに致死量の覚醒剤を口から摂取させて殺害したとして、須藤被告が逮捕・起訴されました。
■「私は無罪です。私は社長(野崎さん)を殺していません」須藤被告は初公判で無罪主張
さらにそれから3年、ことし9月にようやく始まった裁判の争点は2つ。
<争点1>野崎さんは本当に殺されたのか。
つまり「殺人事件なのか」という「事件性」。
<争点2>殺人事件だとして須藤被告は犯人なのかという「犯人性」。
初公判で須藤被告は「私は無罪です。私は社長(野崎さん)を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません」と無罪を主張しました。
検察側は冒頭陳述で、「完全犯罪により莫大な遺産を得るため、致死量の覚醒剤を摂取させて殺害した」と指摘。
一方、弁護側は「野崎さんが自分の意思で飲んだことは完全に否定できるか」などと反論しました。
■覚醒剤の「売人」が法廷に
直接証拠がない中で、検察側は28人もの証人尋問を実施することになりました。
その中には、2人の「覚醒剤の密売人」も含まれていました。
まず1人目は傍聴席からは姿が見えない状態で証言台に立ち、次のように証言しました。
【検察側】「平成30年(2018年)ごろ、どうやって収入を得ていましたか」
【証人】「売人」
【検察側】「何を売っていましたか」
【証人】「覚醒剤」
突然の「売人」の登場に傍聴席は少しざわつきました。
「売人」は2018年4月7日の深夜から8日にかけて、田辺市で女性に覚醒剤を4グラムから5グラム売ったと証言。
検察側は、覚醒剤の売買があった日に須藤被告と売人の通話履歴があることなどから、覚醒剤を買った女性が須藤被告であると指摘しました。
その後、もう一人の「”覚醒剤”を実際に仕入れた売人」が法廷に立ち、田辺市内で女性に売ったのは「氷砂糖」だったと証言しました。
「売人」同士で証言が食い違う中、野崎さんの会社の元従業員や野崎さんと交流のあった人物も証言台に。
【検察側】「証人から見て2人はどう見えた?」
【元従業員】「とても夫婦には見えなかった」
【検察側】「野崎さんは何か言っていた?」
【元従業員】「これはだめだ、別れるしかないなと言っていた」
野崎さんが死亡する直前に愛犬の「イブ」が死んでいて、その時の野崎さんの様子についても証言がありました。
【検察側】「愛犬のイブが死んで社長の様子はどうだった?」
【元従業員】「体中の力が抜けたようで、元気がなかった」
【検察側】「社長はイブが死んだあと、死にたいと言ったことはあった?」
【元従業員】「言ってない」
【検察側】「イブが死んだことに対して、何かする予定はあったか?」
【元従業員】「イブをしのぶ会を開いて、ワイワイしようと言っていた」
夫婦関係が冷え切っていたことや、野崎さんが先の予定を楽しみにしていて、「自殺の可能性はないとみられたこと」を証言しました。
■注目の被告人質問 須藤被告は野崎さんに対して「恨み節」も 「死に方を考えてほしかった。社長がこのタイミングで死んだせいで、私は何年も人殺し扱いなので。クソ」
その発言に注目が集まった被告人質問。
1日目は弁護側の質問から始まりました。
野崎さんと初めて会った日について問われると…
【須藤被告】「(野崎さんが)真剣な顔で「結婚してください」と言ってきた。私は冗談だと思ったので、『じゃあ毎月100万円くれるんだったら、いいよ』と言った」
このような内容を淡々と話しました。
また、結婚の条件として「田辺には住めない」「性行為はしない」「毎月100万円もらう」という3つの条件を野崎さんに出したということです。
覚醒剤については性的機能が衰えた野崎さんから次のように依頼されたと証言しました。
【須藤被告】「社長から『もう駄目だから覚醒剤買ってきてくれませんか』」と言われた。冗談だと思い『お金くれるならいいですよ』と言ったら、20万円渡してくれたので、受け取った」
野崎さんから頼まれて覚醒剤を購入したという主張は、捜査段階ではされておらず、検察側からはその点を追及される場面も…
<被告人質問2日目>
【検察側】「野崎さんから頼まれたと捜査段階で言わなかったのはなぜ?」
【須藤被告】「人殺し扱いされていたので怖くて言えませんでした。警察に言ったところで信じてもらえるとも思っていませんでした。」
動揺することなく、質問を切り返していました。
<被告人質問3日目>
須藤被告にも疲れが出てきたのか、いつにもまして小さな声で話す姿が印象的でした。
この日は須藤被告が事件前、スマートフォンで「老人完全犯罪」などと検索していたことへの質問が相次ぎました。
【検察側】「野崎さんと電話した7分後に『完全犯罪』と検索している。野崎さんと『完全犯罪』は関係がありますか?」
【須藤被告】「ないです」
【検察側】「『覚醒剤過剰摂取』というワード自体で検索したことは事実ですか?」
【須藤被告】「間違いないです」
検索履歴と野崎さん死亡の関連を立証しようとする検察側。
一方、弁護側からの質問に対しては…
【須藤被告】「昔から特殊な殺人事件とかグロテスクなものを調べるのが好きでした」
【弁護人】「平成29年に猟奇殺人などを検索して、アクセスしていますね。これは野崎さんと知り合う前ですか?」
【須藤被告】「はい」
【弁護人】「知り合った後にも調べていますが、特別な理由はありますか?」
【須藤被告】「ないです」
【弁護人】「『老人・死亡』などの検索履歴がありましたが?」
【須藤被告】「直前に見ていた動画が関係しています。老人ホームで3人が転落死した事件で、殺害を認めた男のインタビューを再生していました。直前の動画に影響されて、その関連のものを見たくて検索をしました」
検索履歴は、あくまで趣味であり野崎さんの事件とは関係ないと一貫して主張しました。
ここまで冷静に主張を続けてきた須藤被告ですが被告人質問の終盤には感情が表れる場面も…
【弁護人】「社長が目の前にいたら、文句を言ってやりたいと言っていましたが、今いると思って言ってみてください」
【須藤被告】「もうちょっと、死に方を考えてほしかった。社長がこのタイミングで死んだせいで、私は何年も人殺し扱いなので。クソ」
”恨み節”も飛び出しました。
■検察側は無期懲役求刑 弁護側は「うすい灰色をいくら重ねても黒にはならない」と改めて無罪を主張
そして検察側は殺人事件であること、被告人が犯人であることは十分に証明されたと述べた上で、「被害者の命が奪われ、財産も奪われた結果は重大」「反省の態度がなく、証拠を見て弁解を組み立てて話しているのは明らか」と指摘。
事故や自殺だとすると偶然が重なりすぎていることに触れ、「須藤被告が犯人であれば行動が自然で、犯人でなければ行動が不自然になる」とし、須藤被告に無期懲役を求刑しました。
一方の弁護側は、野崎さんが覚醒剤をどのように口から摂取したのか分かっていないことを指摘。
何でもスマートフォンで検索する須藤被告を「検索マン」と表現し、「どう飲ませるか。誰もが感じる疑問を一切検索していない」と主張しました。
また、殺害を示す直接証拠が出てきていないことについて「うすい灰色をいくら重ねても黒にはならない」と話し、検察側の証拠で間違いないと言い切れるのか裁判員に訴えました。
須藤被告は最後に一言、「ちゃんと証拠を見て判断して欲しい」と訴えました。
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