慢性的な赤字運行が問題となっている伊予鉄道(本社・松山市)の人気観光列車「坊っちゃん列車」について、松山市は運行支援策として2025年度から列車のメンテナンス費の半額を補助する方針を示した。民間会社の調査で、列車の経済波及効果が推定2億円と試算されたことなどを受け、「公費支援は公益性がある」と判断した。一方、市は24年度の支援策として計2回のクラウドファンディング(CF)を計画していたが、1回目が不調に終わったため2回目の中止を決めた。
坊っちゃん列車は、伊予鉄道が01年に運行を開始し、人手不足などを理由に23年11月から約5カ月間運休した。一方、市との協議では、運行開始初年度からほぼ毎年、約2300万円~1億円の赤字を計上し、23年度末までの累積赤字は約14億円に上る見込みと公表された。同社は乗務員が確保できたとして24年3月に運行を再開したが、赤字問題は解決していない。
同社から公的支援を求められた市は、運行再開に後押しされる形で、24年度にCFによる支援を決定。年間の運行赤字額を補塡(ほてん)するため目標額を約5000万円に設定し、2回に分けて実施する予定だった。しかし、1回目(3月20日~6月17日)の寄付額が約280万円で目標額(2500万円)の約1割にとどまったことなどから、再検討して1回で終了することを決めた。市によると、CFの実施にかかった諸経費は約86万円だった。
25年度以降は毎年、市が列車のメンテナンス費用(約4000万~5000万円)の2分の1を補助する。これまでも3年に1回の法定検査費の3分の1(上限400万円)を補助していたが、対象をその他の整備費までに拡大。市は「経営支援ではなく、列車そのものの支援として決めた」としている。上限額については今後、両者の協議で決める予定で、25年度分は当初予算案に盛り込む方針。
新たな支援策の判断材料となったのは、市が民間会社に委託した調査結果だ。その中で実施された市民アンケートでは、運行継続を希望するとの回答が8割近くに上った。運行赤字の公費負担については、市の関与を「求める」が約6割で、「求めない」が約2割だった。また、列車利用者の観光消費などに伴う経済波及効果は、年間で推定2億1570万円と算出された。
支援策や調査結果については11月28日に開催された有識者による「坊っちゃん列車を考える会」の最終会合で発表された。市は「列車が運行する限り、この支援策を変更するつもりはない」としている。今回の調査では、現在の乗車率や運行便数のまま黒字に転換するには乗車料(1300円)を5000円程度に引き上げる必要があるとの見方も示され、公的支援で赤字が解消できるのかが注目される。伊予鉄道の担当者は今回の支援策について「一定の方向性が示されたことはよかった。1日でも長く運行できるよう努力していきたい」と話した。
市民アンケートの結果は
松山市は坊っちゃん列車の運行支援策などの参考にするため、民間業者に委託し、6月28日~7月31日に市民アンケートを行った。無作為に抽出した18歳以上の市民2000人が対象で、840人が回答。結果は市のホームページで公開している。
「(列車の)運行を今後も続けてほしいか」という問いに対し、「ぜひ続けてほしい」が32・5%、「どちらかと言えば続けてほしい」が43・6%で、計76・1%が継続を希望。その理由については「地域の観光振興に貢献すると思うから」が最も多く、73・1%だった。一方、運行を中止すべきだ、どちらかと言えば中止すべきだ、と回答したのは計15・2%だった。
また、赤字について「全額税金を使った負担が必要」(2・1%)、「一部税金を使った負担が必要」(31・1%)が計33・2%で、「負担しなくてよい(企業努力で運行すべきだ)」の23%を上回った。年齢別でみると、20~30代では、CFなど他の方法で資金を確保すべきだとの回答が28・3%で最多だった。
妥当と思う税金負担額は「1000万~2500万円程度」が35・2%で最も多く、「500万~1000万円程度」が25・7%で続いた。また、2024年度のCFの実施について「知らない」(52・3%)が「知っている」(47・7%)を上回り、認知度の低さが判明。「2回目を実施すれば寄付したいか」との問いに「寄付したい」と回答したのは13・3%だった。【広瀬晃子】
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