ひびきLNG基地のタンク増設について説明する西部ガスの加藤卓二社長=福岡市博多区で2024年11月28日午後4時1分、久野洋撮影

 西部ガスは、液化天然ガス(LNG)を貯蔵する「ひびきLNG基地」(北九州市)に、地上式としては国内最大級となる大型タンクを増設すると発表した。建設費は約500億円で、西部ガスとしては過去2番目の大型投資となる。

 企業が脱炭素を進める中、二酸化炭素(CO2)排出が比較的少ないLNGの需要増を見込み、社運をかけたタンク増設に踏み切った。都市ガス供給量を一気に増やし、長期的な成長につなげたい考えだ。

 西部ガスは、タンカーで輸入したLNGをひびきLNG基地に貯蔵し、北部九州の企業や家庭に供給している。新タンクは3基目で容量は23万キロリットル。来年夏ごろに着工して29年の完成を目指す。タンクローリーへの出荷設備なども増強する。基地には容量18万キロリットルのタンクが2基あり、3基体制になれば、LNGの貯蔵量は従来の1・6倍になる。

西部ガスが増設を発表した3基目のLNGタンクのイメージ図(左下の点線部分)=同社提供

 企業や家庭のエネルギーは将来的に電気や水素への移行が予想されるが、技術やコスト面で課題も多い。石炭や石油を熱源とする工場などは、まずCO2排出が比較的少ないLNGに変える需要の増加が見込まれている。

 西部ガスによると、企業の取引件数は増えているが、供給力の問題から大口需要を断るケースもあったという。九州・山口エリアでは今後10年以内に潜在需要が年間30万~40万トンになるとみている。

 西部ガスは22年ごろからタンク増設を本格的に検討してきた。課題になったのが人件費や物価高騰による建設費の値上がりだ。費用を試算すると14年に開業したひびきLNG基地の建設費660億円に迫る規模となり、ガスの需要見通しや財務への影響を慎重に検討した。

 需要が高まる時期に向けて「今がリミット」(加藤卓二社長)と今秋に入札を実施。採算が取れる範囲内の価格で収まったため、建設を決定した。

 LNGの貯蔵量が増すことで、LNG船の受け入れを柔軟に対応できるようになり、コストの削減やガスの安定確保にも役立つという。また、LNG需要が拡大する東南アジア向けの事業も視野に入れる。

 投資額はグループ全体の年間売上高の2割の規模で、銀行からの借り入れと手元資金を充てる。もともと都市開発などの経営多角化を進めてきたが、タンク増設による経常利益の押し上げ効果を、減価償却の負担が軽くなる30年代終わりごろに5割増とする成長軌道を描く。

 ただ、LNGの価格や需要は人口減少や世界的な景気動向に左右される不安要素もある。家庭向けオール電化との競争も激しい。都市ガス業界は将来的に、CO2排出が実質ゼロになる「合成メタン」普及による生き残りを目指す。西部ガスもひびきLNG基地の合成メタン転用を視野に入れるが、合成メタンの実用化にはハードルも残る。

 加藤社長は「投資なしでは成長できない。今を逃せば逸失利益のほうが大きい。リスクは潰してきたが、需要の確度を上げ続けたい」と話し、企業や家庭向けの営業を強化する考えを示した。【久野洋】

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