熊本県警玉名署刑事課の巡査だった渡辺崇寿(たかとし)さん(当時24歳)が2017年9月に自殺したのは県警が注意義務を怠ったことが原因だとして、遺族が県に約7800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁は4日、過労と自殺の因果関係を認めて約6180万円の支払いを命じた。品川英基裁判長は「上司の刑事課長らは過重業務の状況を把握できたのに解消措置を講じず、注意義務に違反した」と述べた。
判決によると、渡辺さんは12年に県警に採用された。17年3月に玉名署刑事課に異動し、約半年後の17年9月、遺書を残して自殺した。自殺は業務上の過度な負担に起因しているとして20年11月に公務災害に認定された。
訴訟では当直時間の長時間労働の実態などが争われた。県警は当時、刑事課の当直業務には仮眠時間もあることなどから「断続的労働」として扱っており、時間外労働時間に算入すべきではないと訴えていた。
これに対し判決は、当直時間中も上司の指揮下にあり、事件が起きれば仮眠や休憩中でも直ちに対応する必要があったとし、時間外労働時間に当たると指摘。渡辺さんが亡くなる前の5カ月間の時間外労働は月143~185時間で、過労死ラインとされる月80時間を連続して大幅に超えており、「精神的・肉体的な負荷は強度だった」と認めた。
その上で、上司の刑事課長らが過労状態を容易に把握できたのに対応を怠ったため、渡辺さんは遅くとも17年8月までにうつ病などの精神障害を発症し、自殺に至ったと結論付けた。
渡辺さんの母美智代さん(64)は記者会見を開き、ほぼ全面勝訴の判決について「息子の名誉を回復するために頑張ってきた。涙が出た」と喜んだ。遺族側代理人の光永享央弁護士(福岡県弁護士会)は「勤務実態に即して当直時間を丸々労働時間に算定しており、画期的だ」と評価した。
熊本県警は「判決文を確認し、対応を検討する」とのコメントを出した。【野呂賢治】
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