住宅街を走行するスカイレール=広島市安芸区で2024年2月22日、久保玲撮影

 広島市の高台にある住宅地とふもとを結ぶ全国唯一の公共交通機関「スカイレール」が4月30日を最後に26年の歴史に幕を下ろす。モノレールとロープウエーを組み合わせた画期的な交通システムとして開業当時は国の運輸白書でも評価されたが、その役目を終える。終了を決定付けたのは、運行収支の悪化だけではないスカイレール特有の事情だった。

 ゆっくりと走行するゴンドラから外を眺めると、一戸建てが建ち並ぶ住宅街がジオラマのように広がる。緑あふれる公園も見え、抜群の眺望が広がる。

 スカイレールは1998年8月に開業。広島市中心部から北東の住宅地「スカイレールタウンみどり坂」(安芸区)にある「みどり中央駅」と、最寄りのJR山陽線瀬野駅に接続する「みどり口駅」間の1・3キロを約6分で結ぶ。住宅地の約2200世帯、約7200人の足として、2021年度は約47万6000人が利用した。

スカイレール

 なぜ全国的にも珍しい交通システムがこの地に整備されたのか。路線の高低差は160メートルと急勾配で鉄道敷設は難しい。しかし、モノレールでは宅地人口に比べて輸送力が過剰になる。このため、高架軌道にぶら下がったゴンドラが行き来する懸垂式モノレールが設けられた。

 従来型のモノレールに比べて建設費は約62億円と、3分の1程度に抑えられた。定員は25人で、8人分の座席を備え、つり革もある。朝夕のラッシュ時間帯は7~8分間隔、日中は15分間隔で運行する。98年度の運輸白書には「低コストで環境にもやさしい交通機関として、今後の活躍が期待される」と記された。

部品の調達難しく

 ふもとの中学校に通う女子生徒(13)は「下校中に友達と車内でしゃべる時間が好きだったが、そんな機会もなくなるからさみしい」と廃止を残念がる。通学で利用する小学6年の男児(11)も「歩いて下校する同級生を窓から見るのが楽しい。それができなくなると切なくなる」と話した。

スカイレールの車内。座席が設けられ、つり革もある=広島市安芸区で2022年2月22日午後1時34分、安徳祐撮影

 悪天候に強いため、18年の西日本豪雨の時も運行し、被害が大きかった地域に向かう多くのボランティアを運んだ。

 中国運輸局や運営会社のスカイレールサービスによると、確認ができる2011年度の最終利益は約2000万円だったが次第に落ち込み、21年度は1億4600万円の赤字だった。設備更新に費用がかかるようになり、経営を圧迫した。

 運営会社は22年11月、23年末での運行終了を発表した。ゴンドラや軌道、橋脚などの部品を製造する会社がなくなり、設備の更新が難しくなったためという。

 その後、代替交通のバス導入に向けた広島市との協議や路線整備に期間を要し、終了時期は24年4月末へと4カ月先延ばしとなった。

バス転換で運賃アップ

 運行終了が発表されてからは各地からファンが訪れている。開業当時に乗ったことがあるという千葉県船橋市の男性会社員(53)は24年2月に再訪。「ゴンドラとモノレールの組み合わせが新鮮だった。廃止はもったいないが、経営判断だから仕方ない」と話した。

 代替の路線バスは地元のバス事業者が3月30日から運行を始めている。住宅地を巡回してふもとと結ぶルートで16カ所の停留所があり、多くの住民にとってはスカイレールより近くに乗降場所が設けられることになる。

 一方、運賃は、スカイレールが大人片道170円だったが、バスは200円に値上がりした。

 住宅地で自治会長を務める倉岡弘至(ひろし)さん(67)は02年ごろに住み始めてから、月5~6回、市中心部などに出かける際に利用してきた。「きれいな街並みを縫うように走り、いつも風景の中にスカイレールがあった。街のシンボルがなくなる。さみしい」と惜しむ。【安徳祐】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。