授業でマイクを手に学生に語りかける石川一雄さん(右)と妻早智子さん=立教大新座キャンパスで2024年10月22日午後4時14分、隈元浩彦撮影

 1963年に起きた「狭山事件」で、「部落差別が生んだ冤罪(えんざい)」として裁判のやり直し(再審)を求めている石川一雄さん(85)が22日、立教大新座キャンパス(埼玉県新座市)の授業に招かれた。石川さんは再審無罪判決が確定した袴田巌さん(88)に触れ、「袴田では一刀両断捏造(ねつぞう)と/狭山も同じ構図を攻めん」という歌を披露しながら、学生たちに「石川一雄を忘れないでほしい」と訴えた。

 同大講師として「近代日本社会と人権」の授業を担当する黒川みどり静岡大名誉教授(65)が招いた。孫世代に当たる約100人の学生らが耳を傾けた。

 無期懲役が確定し、仮釈放中の石川さんは、貧困ゆえに学校教育が満足に受けられなかった生い立ちから語り始め、「無学だったために、警察官に言われるがままウソの自白をしてしまった」と声を振り絞った。19年目を迎える第3次再審請求審では、石川さんの自宅から見つかった万年筆が被害者のものかどうかが最大の争点。核心的な証拠を捜査機関による捏造と認定した袴田さんの無罪判決を踏まえて、「私の冤罪が明らかになると確信している」と力強く語った。

 ともに登壇した妻の早智子さん(77)は、逮捕から61年にわたって公民権が奪われている一雄さんについて、「彼はこの社会ではまるで透明人間のようだ。生きているうちに無罪を」と悲痛な声を上げた。そして、「部落差別、男女差別など、さまざまな差別がある。おかしいと気づいていくことが、差別のない社会につながる」と語りかけた。

 夫妻を招いた黒川さんは「袴田さんの再審無罪は、おかしいと思った市民の声が結集して勝ち取った。問題意識を持ちながら権力を監視する姿勢が民主主義と、人権侵害を許さない社会の実現につながる。石川さんの言葉を通して、そんなことが学生たちに伝わってほしい」と話した。【隈元浩彦】

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