コロナワクチンの定期接種が始まった。

これまでのファイザー、モデルナのほかに、新しく3種類のワクチンが加わり、接種者の選択肢が広がったように思える。

しかし今、その中の1つ「次世代mRNAワクチン(レプリコン)」をめぐって懸念の声があがっている。

SNSなどを中心に、「周囲にワクチン成分を伝播させる」などという情報が流れ、レプリコンワクチンを接種した人の、入店や受診を拒否する動きが起きているのだ。

ある医院のHPには、「接種者の呼気から有害な毒素が大量に排出され、同じ空気を共有する人の健康を損なう可能性がある」とまで書いてある。

一体、どういうことなのか?

感染症学が専門の昭和大学・二木芳人名誉教授に詳しく話を聞いた。

■レプリコンワクチンはこれまでのワクチンと何が違う?

【昭和大学 二木芳人名誉教授】
「レプリコンワクチン」は、「次世代mRNAワクチン」と呼ばれるワクチンです。

mRNAにはタンパク質の遺伝情報が記録されており、接種すると人の体内でコロナウイルスのスパイクタンパクを作らせます。

すると、ヒトの体は「異物が入ってきたぞ」と、このスパイクタンパクに対する抗体(免疫)を作ります。

スパイクタンパクとは、もともとはウィルスの表面にあるとげのようなもので、ウィルスが感染し、人の細胞に侵入する時に必要なものです。

つまり、体内に抗体(免疫)があると、ウィルスがやってきた時に、ウィルス表面のスパイクタンパクを無力化し、感染を防いでくれるということです。

ちなみに、mRNAによって作られるスパイクタンパクとは、あくまでパーツであって、ウィルスそのものが作られるワケではありません。

従来のファイザーやモデルナ、新しく承認された第一三共も、同じ「mRNA」を利用したワクチンです。

mRNAを接種してスパイクタンパクを作らせ、それに対する抗体(免疫)が作られ、ウィルスの感染を防御します。

では「レプリコンワクチン」は、何が違うのか。

従来のワクチンは、接種後、1回だけスパイクタンパクを作ります。

これに対して、レプリコンワクチンはmRNAが人の細胞内で増殖するのです。

今、問題だと言われているのが、この「自己増殖」で、どんどん作るということは、必要以上にmRNAが体内で増え、結果としてスパイクタンパクが過剰に作られて、様々な不都合が生じるのではないかと懸念されているのです。

■ピークは8日目 永久に自増殖するわけではない

自己増殖は永久に続くわけではありません。

ある程度のところで止まるということは、実験的には確認されています。

マウスにワクチンを接種し、その筋肉内のmRNAの量を調べていますが、接種した直後にいったん減ります。

その後じわじわ増えていき、8日目がピークで、あとは下がり、2週間程で検出されなくなります。

無制限に増えるわけではありません。

ただし、mRNAの量は、従来のワクチンより多くなり、効果の持続期間も長くなると考えられます。

その結果、従来のワクチンは3カ月ほどで予防効果が下がりますが、レプリコンはそれよりは長く効果が持続するのではと言われています。

身体の中でmRNAやスパイクタンパクが大量に増え、抗体(免疫)が過剰に作られることを心配される向きはありますが、仮に抗体(免疫)がたくさん出来ても、特に問題は無いレベルと考えられています。

■周囲の人への感染は考えにくい

従来のワクチンも、レプリコンワクチンも、体内のmRNAやスパイクタンパクは、ごく微量ですが、呼気や唾液などを通じて体の外に排出される事も知られています。

今、懸念されているのは、「レプリコンワクチン接種者の体から排出されたmRNAやスパイクタンパクが、周囲の人にシェディング(感染)を生じ、その人たちの健康を損なうのでないか」ということです。

繰り返しになりますが、レプリコンワクチンは、基本的には「mRNA」も「スパイクタンパク」も、これまでのものと同じです。

その上で、「増殖」というのが新しい仕組み。

量とか持続時間が違いますから、唾液などに出てくる状況なども、従来のものとは違うかもしれません。

ですが、それが他人に感染するとか、周りの人に害を及ぼすという可能性は極めて低いと思われ、科学的根拠もありません。

また、ワクチン接種によって作られるのは、スパイクタンパクという一部のパーツで、ウィルスそのものではありません。

ですから、スパイクタンパクが増えても、ウィルスが増えるわけではないので、感染が広まる危険性は考えにくいと思います。

■次世代ワクチンの真価には時間をかけた評価が必要

定期接種が始まり、5種類のワクチンの中から自分で選んで接種できるようになりました。

その中で、レプリコンワクチンは新しい仕組みのワクチンですから、不安に感じられる方がいらっしゃることも理解できますし、無理からぬことです。

mRNAワクチンそのものに関しても、まだ多少の疑問が論じられていますから、この新しい仕組みのワクチンに関しては、やはり、その中長期の安全性や、有効性については、もう少し時間をかけて評価しないといけない部分も確かにあるとは思います。

今年も冬に向けて、コロナの再流行が予想されています。重症化リスクの高い高齢者や持病のある方は、それぞれのワクチンについて、良い点、注意すべき点をしっかりと確認し、納得された上で、ワクチン接種を検討していただければと思います。
(昭和大学 二木芳人名誉教授)

昭和大学
二木芳人名誉教授(医学部内科学講座臨床感染症学部門)

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