俳優の西田敏行さん=佐藤賢二郎撮影

 人気俳優、西田敏行(にしだ・としゆき)さんが死去しました。76歳。映画「釣りバカ日誌」シリーズや大河ドラマ、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」など、多数の作品に主演してきました。2004年8月に行った毎日新聞のロングインタビューでは、演じることへの情熱について、熱く語っていました。3回にわたって再掲載します。=第1回(2004年08月20日東京夕刊掲載)

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 <「男はつらいよ」なき今、実写で唯一の国民的シリーズ映画である「釣りバカ日誌」。バブル絶頂期の88年にシリーズを開始して以来、主人公「ハマちゃん」を演じ、はや16年になる>

 「ハマちゃん」は僕にとって、いつもそばにいるとうるさくて疲れるけど、いないと寂しい友だちのような存在です。一方、世の中にとっては、社会のキャパシティーを測る物差しみたいな存在ではないですかね。

 今作品では「ハマちゃん」にもリストラの危機が訪れます。成果主義のこの厳しい時代にも、「ハマちゃん」がサラリーマンでいられるのかどうか。社会にそれだけの余裕があるかどうか。職場や学校に「ハマちゃん」みたいな人が居続けられ、周囲もその存在をいとおしいと思い、それなりに付き合っていける、そんな世の中こそが人間にとって一番幸せだと僕は思うんです。

 <自身は団塊世代である。年間3万人が自殺するこの国で、ノルマ主義やリストラに擦り切れた同世代の男たちにこんなことを呼びかける>

 僕ら、もう十分に闘ってきたじゃないですか。幼いころから何にでも「地獄」や「戦争」がついていた世代でした。受験地獄に就職戦争。競争率はいつも過去最高。でも50代後半となった今だから、人生をもっと突き放し、遠望してもいいんじゃないか。

 背負っているものは重い。でも次世代に譲れば結構やってくれるもんです。あきらめるな、でも頑張るな、ってね。

 <ところで万年ヒラ社員のハマちゃん、今後はどうなる。まさかこのまま定年なんてことも?>

 彼はいくつになっても周囲に「プチ迷惑」をかけながら、自分の好きなことを貫いて、奥さんを夢中で愛していくんじゃないかなあ。達観したり枯れたりしない気がします。だって魚が釣れない場面で、彼が静かに「ボウズでもいい」とか「釣り糸を垂れること自体に喜びがある」とか言い出したら……なんかつらいじゃないですか。【聞き手・小国綾子】

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