繰り返された医療事故。手術のミスで両脚がまひするなど重い後遺症も。その背景にはいったい何があったのでしょうか。

■手術で両脚まひなど後遺症 患者女性「足を動くようにして。そうじゃなければ死ぬ」

元気に出かけることもできていた女性は、手術のミスで自由を奪われ、強い痛みが体を襲う日々を送ることに。

【女性患者の家族】「死にたいっていうふうな、『この痛みを治してくれ。足を動くようにしてくれ。そうじゃなければ死ぬ』っていうことを言っていました」

こう話すのは、赤穂市民病院で手術を受け、両脚がまひするなどの後遺症が残った女性患者の家族です。

■「人工透析になる可能性」と手術勧め診断から5日後に執刀

女性は腰痛があったものの、十分に歩くことができた2020年1月。

赤穂市民病院で、腰骨の変形で神経が圧迫され、脚が動きにくくなる「脊柱管狭窄症」と診断されました。

診断したのは40代の男性「A医師」。

女性の家族によると、A医師は、手術を勧めるとき、こう話したといいます。

「手術は早くした方がいい。早くしないと人工透析になる可能性がある」

こう説明され女性は診断からわずか5日後に腰骨の一部をドリルで削って取り除く手術を受けました。

■「なんで脚が動かない」憤りも

しかし「A医師」は、手術で誤って腰の神経の一部を切断。

女性は両脚がまひし、強い痛みが続いたほか、尿意や便意を感じられなくなる症状が残りました。

【女性患者の家族】「手術後に急に足が自由に動かなくなったりとか。普通手術って終わったら、手術前よりも良くなってるようなものなのに、『なんでこんな脚が動かないんだ』とか、そういうことに対して憤りとかも感じていました」

■執刀医「A医師」は業務上過失致傷の疑いで書類送検も

家族たちは、徐々に執刀を担当したA医師の問題を知ることになります。

医療事故を繰り返していて、A医師がこの手術を含めて関わった8件の手術で、患者2人が死亡、6人に障害が残っていたことが明らかになったのです。

患者の女性と家族は2021年8月に、「医師が手術の経験も技量もないのに執刀し、後遺症が残った」などとして、医師と赤穂市に対して民事裁判を起こし、あわせておよそ1億3000万円の損害賠償を求めています。

さらに捜査関係者によると警察はこの手術について、止血など適切な処置を怠ったことがミスにつながり、後遺障害を負わせた業務上過失致傷の疑いで執刀したA医師と上司をことし7月、書類送検しました。

【女性患者の家族】「刑事告訴、刑事事件に関しては、お母さん自身が自分みたいな被害者を、これ以上うんでほしくないっていう思いが強くあったので、刑事告訴したんです。ほんの少しでも、自分が受けた痛みを(A医師に)分かってほしいっていうことを言っていました」

■「1人で手術をしていいのか疑問」 病院の調査でも「技術不足」指摘

では、一体なぜ、手術ミスが起きたのか?関西テレビはこの手術の動画を入手し、別の医療機関の外科医に検証を依頼しました。

外科医は一部を見た印象だと断ったうえで、次のように指摘しました。

【外科医】「いろいろなところにドリルを当てにいっている。どこを削ればいいのかっていうのがわかっていないんじゃないかなっていう印象を受けました。1人で手術をしていい医師なのかと言われると、疑問を感じます」

病院が依頼した外部の医師の検証でもA医師は「技術不足」を指摘されています。

手術禁止となっていたA医師は2021年に、赤穂市民病院を退職。

■「必要な透析治療を行わずに患者を死亡させた」と遺族が提訴

次に勤めた大阪市にあった、「医誠会病院」でも、トラブルが。

去年1月、A医師が救急で担当した患者で、「必要な透析治療を行わずに患者を死亡させた」として、遺族が病院に対し、慰謝料などおよそ5000万円の損害賠償を求める民事裁判を起こしたのです。

【原告・亡くなった患者の長女】「向こうから申し訳ないですやってませんとか透析をやらなかったですということは一言も言われないです。いまだに一回も言われないです」

こう語るのは、死亡した患者・山田進さん(当時90歳)の長女。

山田さんは入居していた介護施設で新型コロナのクラスターが発生し、透析を受けるために医誠会病院に入院しました。

■入院当日に透析のはずが カルテに「指示なし」

担当になったのがA医師で、入院した当日には透析が必要だったのに、カルテに透析の指示はありませんでした。

また家族に対して何の説明もないまま、山田さんは入院3日目に心肺停止の状態で発見されたのです。

病院から明確な説明はなく、裁判に踏み切りました。

【山田さんの長女】「私としては父親が透析目的で入院してきたこと、その患者に1月7日(入院当日)に透析しなければならなかったことを認めた上で、『申し訳ない。医療事故だった』と、自分たちがミスをしましたってことを認めてくださったら示談で終わると思ったんです」

■一度も家族に連絡なく 望まない「延命治療」が

山田さんは長女に対して、万が一の時には延命治療はせずに、「尊厳死」を選びたいと話していました。

しかし家族に連絡もないまま、心肺停止になったことで、拒否することもできないまま、延命治療が施されたのでした。

【山田さんの長女】「(山田さんは)自分の最後の迎え方まで考えていた。もう本当に父の最期を一番ひどいことにしてしまったなってと思っています。それだけが唯一の心残りです」

■識者「厚労省・医師会・病院がミス繰り返す医師を排除するという期待持てない」

医療事故を繰り返す医師への対応について、医療裁判に詳しい弁護士はこう指摘します。

【貞友義典弁護士】「厚労省、医師会、それから各病院が患者のために、(医療事故など含む)悪いミスを繰り返す医師を排除するという期待を持つことは、難しいというのが私の結論です。必要がない危険な検査、危険な手術をするということだけはどうにかして食い止めるべきだと。これを食い止めるところが何かというと、セカンドオピニオンしかなないような気がします」

■民事裁判の尋問でA医師「技量不足ではない」主張

A医師は赤穂市民病院での手術ミスをどう考えているのか。

先月、民事裁判で本人の尋問が行われました。

これまでの裁判で自身のミス自体は認めているA医師は女性患者への思いを聞かれ、こう答えました。

【A医師(裁判で)】「大変申し訳なかったと思っています」

しかし「技量不足だったのでは?」と聞かれると…

【A医師(裁判で)】「前の病院で助手も経験しているし、まったく技量不足ではない」

そして「上司の医師にせかされた。そのためよく削れるドリルに変えたことが最大の原因」とと主張しました。

■「メスを置いたつもり」 患者家族は「事実と受け止められない」

尋問の終盤、A医師は次のように述べました。

【A医師(裁判で)】「外科医としてはもうメスは置いたつもりでいます」

手術ミスで後遺症が残った、女性患者の家族は裁判を傍聴していました。

【女性患者の家族】「(メスを置いた発言)事実と受け止められません。このまま起訴もされず、事件が風化して忘れ去られて行ったら、またメスを使った行為をやるんだろうなって思っています」

A医師を起訴するかどうかの判断は近く下される見込みです。

(関西テレビ「newsランナー」2024年10月15日放送)

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