2025年大阪・関西万博(4月13日~10月13日)の開幕まで13日で半年となった。全国のコンビニエンスストアや旅行会社では入場券の紙チケットの販売が始まるほか、一部前売り券では開幕日の来場予約もスタート。国内パビリオンは外観が完成し、内装や展示の準備に移行したところもある。ベールに包まれた見どころを一足早く紹介する。
1970年大阪万博で奇抜な見た目と斬新なアイデアで注目を集めた「人間洗濯機」。55年ぶりにその進化版が2025年大阪・関西万博にお目見えする。“令和版”には新たな技術に加え、70年当時の開発担当者の思いも詰まっている。
「衣服を洗う洗濯機は売れたが、人間を洗う洗濯機を作らへんか」。人間洗濯機は、三洋電機創業者、井植歳男氏(故人)の肝いりで70年万博に向けて開発された。大きな卵形カプセルの浴槽に湯をため、噴き出す気泡がはじける時の超音波で体の汚れを落とす。
「ウルトラソニック・バス」と命名され、大阪万博のサンヨー館で出展。家庭への風呂の普及が十分ではなかった当時、スケルトンになったカプセルの浴槽への入浴の実演には人だかりができた。
三洋電機のエンジニアとして開発を担当した山谷(やまや)英二さん(84)=京都市北区=は、会社が本業で忙しく人手を回してもらえず、部品発注や工程管理を一人でこなした。
「従来と同じ技術だと、上司や会社に恥をかかせてしまう」と手探りを続けた。ヒントになったのは、水中で小さな泡がはじける際に超音波を出すという文献。ただ、当時は超音波の衝撃力を確かめられる測定器や専門機関もなく、焦っているうちに展示が決まったという。
山谷さんは「汚れがより落ちると考えて小さな泡を目指したが、技術的に難しかった。見栄えを重視する会社の方針もあり、展示では大きな泡になった。技術者としてはやりたくなかった」と当時の複雑な心境を明かす。
デザインの責任者として人間洗濯機に関わったのは、上田マナツさん(90)=大阪府豊中市=だ。「卵形にしたのは一番安定している形で、曲線による優しさを追求した結果。万博で注目を集めそうだと予想されたので、万が一に備えて2台用意した」と語る。
大阪・関西万博では、大阪府・市などが出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」で、「ミライ人間洗濯機」が登場する。開発しているのは、大阪市の企業「サイエンス」。同社は微細な泡で汚れを落とす技術を活用したシャワーヘッドや浴槽などを展開している。
ミライ人間洗濯機は体を洗うだけではない。背中に触れるセンサーでストレスや疲労度を計測。心身の状態に合わせた映像を流し、リフレッシュできる空間を追求する。万博では来場客にも体験してもらう方向で一般公募する予定だ。
開発には、山谷さん、上田さんの2人がアドバイザーとして関わる。山谷さんは転職を経て定年退職した後も、改良して商品化したいとの思いを捨てきれず、企画書を練り続けてきた。
転機は21年。サイエンスのシャワーヘッドのテレビCMを見て、「自分が考えている人間洗濯機の改良に応用できるのでは」と直感。サイエンスに電話を入れた。
その時は、サイエンスの青山恭明(やすあき)会長(64)が人間洗濯機について助言を得るため、上田さんと会う約束を取り付けたばかりだった。こうした偶然もあり、同社は山谷さん、上田さんの協力を弾みに開発を進めた。
山谷さんは「僕の時の人間洗濯機は体を洗うだけだったが、今回は体のコンディションをセンサーで判断する先進的な部分が加わっている。日本の技術力を世界にみてもらいたい」と期待を寄せる。
大阪ヘルスケアパビリオンでは他にも技術の粋が紹介される。ロート製薬は、主力事業の一つ「アイケア」に関する展示をする。来場客の顔を撮影して、目の健康状態を把握する。
大阪大と企業のグループは、和牛の筋肉や脂肪の細胞を培養し、3Dプリンターで成形した「培養肉」に関する展示を予定している。【新宮達】
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