社会問題化しているSNS(ネット交流サービス)型ロマンス詐欺、SNS型投資詐欺の被害は全国と同様に滋賀県でも急激に増加している。今年1~9月は、同様の被害は前年同期比の約2・5倍となる16億6000万円に上った。どのような手口が横行しているのか。SNS型ロマンス詐欺で約1500万円をだまし取られた大津市に住む男性(61)に話を聞くと、犯罪者側の「長期計画」が浮き彫りになった。【菊池真由】
LINEでやり取り、1500万円被害
男性が女性と知り合ったのは今年6月だった。名前は奈雪。動画投稿アプリ「TikTok」に女性が訪れたとみられる神社や寺の映像が上がっていて、自身も神社などが好きだったため興味が湧いた。思い切ってコメントを投稿すると、「友達になってしゃべりませんか?」と返信。少しやり取りした後、無料通信アプリ「LINE」で会話が続いた。
2週間ほどはたわいないメッセージだった。最近のドラマの話やお互いの夕食のメニュー、料理の作り方も教えてもらった。女性が送ってきた自撮りの画像は男性の目には魅力的に映り、女性が自らお金を稼いで裕福な暮らしをしていることも分かって、惹かれていった。
7月になって、「日本経済が急激に悪化している。アルゴリズム(計算方法)を用いて利益を得ることができる」などと女性が投資話を持ち掛けてきた。女性の指示に従って最初に16万円を投資した。2万円分の利益が出て実際に口座から引き出すことができた。
女性から紹介された投資方法は、人工知能(AI)が掛け金を決め、その金額を入金しないと取引が成立しない仕組みだった。利益が出ていた形になっていたため、AIが設定する掛け金が大きくなり、多額の現金を投資することになっていった。
しかし、8月、口座から金を引き出そうとしたところ、女性のいう「カスタマーセンター」から「引き出すことができない。契約金を払え」とメッセージがあった。契約金が多額なことから不審に思い、県警大津署に相談したところ、被害が明らかになった。
「退職金も含めたほぼ全ての財産をつぎ込んだ。数年はゆっくりとすごそうとしていたのに」と男性は力なく笑う。1年前に約40年勤務したホテルを退職していた。被害にあってから生活費を稼ぐため、9月に警備会社に再就職し、週5日働いている。同市内で妻、息子と3人で生活しており、妻からは「言葉も出ない」と一言。息子にも呆れられた。
男性はなぜ、被害にあったのか。画面上の日本語は流ちょうとはいえない。男性も女性の片言の日本語を不審に思うことはあった。それでも、「女性のように稼いでみたい」という思いがあり投資を続けた。
さらには、「(女性とのやり取りが)ストレス解消となり、毎日の楽しみになっていた。儲けがでるのと同じように女性とやり取りできることがうれしかった。女性を信用し警戒心が薄れたことはあったと思う」と振り返った。
男性は「(SNS上では)リクエストがきても誰でも承認しない方が良いと思う」と訴えた上でこうつぶやいた。
「人を信じることは難しいな」
県警組織犯罪対策課の橋本祐二次席はSNS型ロマンス詐欺、SNS型投資詐欺について「特殊詐欺と比べ、ゆっくりと時間をかけて多額なお金をだましとることが特徴」と指摘する。「最近では副業の呼びかけを用いた詐欺も増えている。なるべく詐欺の知識をつけ、危機感を持って自分事と捉えてほしい」と訴えた。
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