世界遺産・知床(北海道斜里町、羅臼町)に携帯電話基地局を整備する国などの事業について、11日に斜里町で国や地元自治体、通信事業者などが非公開で会議を開いた。出席した関係者によると、国が知床半島先端での基地局整備を「当初計画はいったん中止」とする方針を明らかにしたという。今後、環境への影響調査の結果や地元合意を判断した上で改めて推進する。半島先端の整備は、希少な猛きん類であるオジロワシへの影響が懸念されるとして、着工が見合わせられていた。
半島先端の整備は、知床岬灯台にアンテナを設置し、約7000平方メートルに電源となる太陽光パネルを敷設する計画。自然保護団体や地元町民などが必要性に疑義を呈し、関係省庁などに再考を求めていた。また、工事予定地の100メートル以内のエリアにかつてオジロワシが繁殖に使っていた営巣木が見つかり、知床世界自然遺産地域科学委員会がオジロワシへの影響調査を求めていた。
事業の発端は、2022年4月23日に発生し、死者・行方不明者が26人に及んだ観光船沈没事故で、連絡手段の一つだった携帯電話がつながらなかったことから、通信圏外エリアを解消するためだった。羅臼町だけでなく、斜里町の漁業者からも事故以前から海域の通信環境の改善を求める要望があがっていた。
整備の中止について、反対を訴える約4万8000筆の署名を集めた運動に参加した斜里町の女性は「ただただよかったとの思い。いろんな人が参加してくれた。知床の自然を愛してくれる人が多かった。声をあげることで国を動かせた」と話した。一方、整備の推進を訴えていた羅臼町の湊屋稔町長は「環境への配慮を大前提として、漁業者の安全を担保したい。諦めず要望を続けたい」と述べた。
整備計画は知床半島の4カ所で進められる予定で、すでに知床五湖、宇登呂灯台地区の工事は終わった。関係者によると、残る羅臼町のニカリウス地区は整備が遅れる見通しという。【本多竹志】
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