受刑者と直に接し、教育に当たる福岡刑務所の教育専門官。
受刑者のうち、特定の事情が社会復帰に支障をきたすと認められた場合、特別なプログラムが実施される。そのプログラムとは、薬物依存の人に離脱を指導するR1、暴力団組員に組織からの脱退を指導するR2など、犯した罪や境遇に応じて6つに分類される。
被害者や遺族について”考えさせる“
今回の受刑者はR4。他人の生命を奪う、または身体に重大な被害をもたらす罪を犯し、被害者や遺族について特に考えさせる必要がある受刑者で、入所から出所までの間、原則、60分一単元の個人指導を12回に渡り行う。
この記事の画像(12枚)福岡刑務所の松村隆史教育専門官に尋ねると「薬物依存離脱指導(R1)というのは自分が薬物を使わないようにするという明確なゴールがある。でもR4に関しては、被害者の方の命を奪っていたりするケースもあるので、どこまでやればいいのか、というところには終わりはないかな」とその難しさを語った。
教育専門官の松村さんがR4受刑者と向き合う。「人に流されやすい性格というのが一番駄目だなと自分でも思っています」と語るR4受刑者。「人に流されやすいと言ったら人に流されやすいなんですけど、でも○○さんのお気持ちは?」と松村さんは尋ねる。
R4受刑者は「言ったら『こいつ何や?』って思われるのが嫌だったから言えなかったのはありますね」と自分の心情を吐露した。
今回の受刑者のように、生命や身体に関わる重大事件を起こしたR4受刑者に対する教育専門官の改善指導がいま、変化の時を迎えている。法律の改正で、被害者側の心情を受刑者に伝える制度が2023年12月からスタートし、これに対応するかたちで、これまで以上に被害者側の心情を取り入れたプログラムへの改定が必要となったのだ。
「より被害者の心情を伝えなさい、ということだったんですが実際、被害者の声が聞けるケースは本当にごく稀で、でもそれを考える機会というのを作らないといけないので、どういうふうにしようかな」と苦悩する松村さん。教育専門官として思いを巡らす。
監禁致死罪R4受刑者の目に…
監禁致死罪で、懲役7年となったR4受刑者。松村さんにとっては、新たなプログラムを適用する初めてのケースとなった。この日は5回目の指導。被害者側の心情を考える単元だが、この事件では、被害者遺族が受刑者との関わりを望まなかったため、犯罪被害者支援センターの担当者2人を招いた。
担当者を前にしてR4受刑者が口を開く。「いまの自分にできることって何なのかな、と。遺族の苦しみを想像したりしかできないんですよ、僕は拒否されているんで、手紙とか…。遺族の方とかが、『事件の真実を知りたい』と言いますが、裁判のときに(私が)正直に話して、それが遺族の方にとっては、少しは良かったのかな、と(思っています)」とR4受刑者が少しずつ心を開いていく。
担当者のひとりが口にした「ご遺族の方にも(受刑者の思いが)伝わればいいなと個人的には思いました」という言葉に対し、松村教育専門官が「少し報われた感じがして良かったですね」と受刑者に声をかけた。「良かったなって…、申し訳ないと思います」。そう語ったR4受刑者の目には、光るものがあった。
指導後、特別に話を聞くことが出来た受刑者は「もっと深くまで想像して考え続けないといけないなと思いました。やっぱり忘れないことだと思います。遺族の思いを忘れたときに再犯を犯すんじゃないか」と静かに語った。
この受刑者は2025年、刑の満期を迎える。
「懲らしめ」ではなく「立ち直り」
教育専門官の松村さんは「このプログラムが、今回の受刑者の再犯防止にどう繋がっていくのかは、残りの回数を重ねていくなかで、また練り上げていくことになるんですが、施設のなかだけで終わらない。出所してからどう繋がっていくのか。どう自分で道を開いていくのか、というところが再犯防止にはすごく必要かなと思います」と最後に語った。
刑法の改正で、従来の「懲役刑」と「禁錮刑」は廃止され「拘禁刑」に一本化される。拘禁刑は「更生のために必要な作業をさせたり、指導を行ったりする刑」とされ「懲らしめ」ではなく「立ち直り」を重視している。全国の刑務所では、受刑者を「さん」付けで呼んだり、号令をかけての集団行進を見直す取り組みを進めたりしているが、これも受刑者の社会復帰を見据えてということだ。松村さんも「まさにいま、刑務所も変革期。今後、社会復帰に向けた教育的な処遇がより充実してくるのではないか」と期待をしている。
(テレビ西日本)
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