消しゴムはんこ作家の田内梢さん=高知市で2024年9月12日午前11時10分、小林理撮影
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 「もはや神レベル」「すばらしいとしか言えない」。高知市在住で「こずえのはんこ」として活動する田内梢さん(37)は、子どもたちを励ますそんな言葉を教員向けの消しゴムはんこにして、インターネットで販売している。手作りの温かみで人気を集め、3年あまりで約3800個が売れた。10月には同市内で個展を開催する。

 子どものころから文房具が好きだった田内さんは、2017年ごろから購入した消しゴムはんこを自分なりにアレンジし始め、趣味としてはんこ作りを始めた。21年に「JESCA日本イレイサースタンプ協会」(北海道帯広市)のインストラクター認定資格を取得し、本格的に専業の仕事としてはんこ作りを始めた。

 当初はどんなジャンルに絞るか試行錯誤していたが、同年秋に「がんばってるね!その調子でいこう!」というはんこを購入した教員から「このはんこはポンと押すだけで温かいメッセージを添えられるので、とても助かっています」という感想を受け取った。学校の教員は、児童から提出されたノートやプリントにはんこを押すことが多く、オリジナルのはんこを探している人も多い。「先生を応援する気持ちではんこを作ろう」と決めた。

 田内さんが作るはんこは、ポジティブなメッセージに満ちている。「『いいね!』を100回押したい」「言うことなしでございます」「どんどん成長しているね」など、押してもらえば子どもがうれしくなる言葉ばかりだ。購入した教員からは「こんなはんこを探していました!」「子どもたちから好評で、意欲向上につながっています」など、喜びの声が送られている。

 田内さんは言葉を決める時、子どもがどんな場面ではんこを見るのかを具体的に想像する。テストの点数が悪かった時なのか、うまく書けたノートを返してもらう時なのか。「『もう少し』『がんばろう』というネガティブな言葉は作りません。当初作っていた『たいへんよくできました』というはんこも、事務的な感じがしたので廃盤にしました。先生にも子どもにも心に刺さるようなはんこを作りたい」と思いを語る。

集中しながら消しゴムを細かく掘り進める=高知市で2024年9月12日午前11時2分、小林理撮影
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 現在は330種のバリエ-ションがあり、希望者はその中から選んで注文し、田内さんが1個当たり1時間くらいかけて製作する。大きさは3センチ角で税込み1500円。通常は入金から4週間以内に発送する。

 田内さんの歩みは平たんではなかった。学生時代から心身に不調をきたすことが多く、30歳を過ぎてからそう状態とうつ状態を繰り返す脳の病気「双極性障害」と診断された。仕事を休まざるを得ないこともあり、療養を続けている中で出会ったのが消しゴムはんこ作りだったという。今でも調子に波はあるが、定期的に治療を受けながら製作活動を続けている。

 田内さんは「障害になったり生きづらかったりする理由を考えるときりがありませんが、購入した人から温かい言葉をいただいたりする中で、障害とともに経験してきたことが自分の創作力の源になっていると思えてきました」と話す。自らの障害を公表して活動することで「こういう生き方もあるんだと知ってもらえればうれしい」と語る。

 個展の開催は23年に続いて2回目で、10月13~15日に「高知 蔦屋書店」(高知市南御座)の3階で開く。午前10時から午後6時で、入場無料。消しゴムはんこの展示・販売やオリジナルポーチ作りのワークショップ(有料)も予定されている。【小林理】

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