伊豆諸島の鳥島東方海域で20日夜に墜落事故を起こした海上自衛隊SH60K哨戒ヘリコプター2機は、潜水艦を探知する「対潜戦」の訓練を夜間に行っていた。同型機の夜間の事故は近年2度発生。詳細な原因は調査中だが、再発防止が徹底される中で3度目の事故は起きた。他国の脅威に最前線で立ち向かうパイロットらに何があったのか。

「視認性が劣る非常に難しいオペレーションだ。かつ潜水艦を捜索する観点からヘリ同士の距離も近づく。過去の教訓も踏まえ、見張りを徹底するなど指導してきているところなのだが…」

海自トップの酒井良海上幕僚長は21日の記者会見で、夜間訓練の難しさをこう話した。

潜水艦は電波の届かない海中に潜み、存在を把握するのは容易ではない。そのため、哨戒ヘリは昼夜問わず潜水艦を探知、追尾できるよう日常的に訓練を行っている。

対潜戦の訓練は、周辺海域に展開した護衛艦を発艦したヘリ2~3機でチームを組み、それぞれ海に投じた音波探知装置(ソナー)から探知音を発し、その反射音を受信して敵潜水艦の方向をつかむ。潜水艦側は探知音を聞いて動くため、場所を変えて探知を繰り返し、位置を絞り込む〝音響戦〟を展開する。

ソナー投入中はホバリングするため危険は少ないが、次の投入地点へ移動する際、風向きによって各機の飛行ルートが異なり危険が生じやすい。「僚機間リンク」と呼ばれる通信システムで互いの位置が把握でき、接近時に警報音が鳴る仕組みはあるが、常時つなぐわけではないという。

最終的に目視による見張りが重要だが、日没後は夜間灯が頼りだ。海自関係者によると、対潜戦は約2キロ圏内をヘリ数機が飛び回ることもあり、現役操縦士は「難度が高いからこそ全員ができるようにならないといけない訓練だ」とも言う。

海自では同型機の事故が夜間に2度起きている。平成29年8月、青森県・竜飛崎沖で発着艦訓練中の哨戒ヘリ1機が墜落、2人が死亡、1人が行方不明になった。計器修正中の人為ミスが原因とされた。

一方、令和3年7月に鹿児島県・奄美大島沖で哨戒ヘリ2機が訓練中に接触。乗員8人は無事だったが、行動の目印となる場所が2機で食い違ったことや見張りが互いに不十分で、ルートが交錯したのが原因とされた。海自は複数機が展開する場合、高度差を指示するなど再発防止策の徹底を打ち出していた。

それでも今回2つの機体は異常接近した。海自はフライトレコーダー(飛行記録装置)を解析し、僚機間リンクなどの通信状況を調べるとともに3機目のヘリの乗員からの聞き取りを進める。酒井幕僚長は「近接距離に十分配慮する形でやってきた。なぜ今回できなかったのか検証課題だ」と唇を結んだ。(市岡豊大)


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