特攻隊員だった自身の体験などを語る千玄室さん=大分県別府市上田の湯町で2024年8月19日午後1時12分、石井尚撮影

 戦時中に特別攻撃隊として訓練を受けた茶道裏千家(京都市)の前家元、千玄室さん(101)が19日、大分県別府市上田の湯町の市公会堂で講演した。自らの経験を踏まえ、「二度と戦争を起こしてはいけない」と語る千さんは、譲り合う気持ちを大切にする「茶の精神」を紹介。その実践による「戦争のない社会」の実現を訴えた。【石井尚】

 市などが主催する行事「平和を考える市民の広場」の一環で、約300人が参加した。

 千さんは同志社大在学中の1943年、学徒出陣で海軍へ入隊。所属していた徳島海軍航空隊に特攻隊が編成されたことから、その一員となった。

 講演では、出征前に実父から家元の茶室に呼び出され、千利休が切腹で使ったという約25センチの短刀を見せられたエピソードや、隊の上官から「お前らは死ぬために来たんだ」と言われながら訓練した体験を披露した。

 出征の際、千さんは携帯用の茶箱を持参し、隊の同僚に茶を振る舞ったという。その際、ある戦友が「生きて帰ったら、お前のところの茶室で茶を飲ませてくれ」と話し、その時に初めて「死ぬんだな」と実感したことを振り返った。千さんは「今でもその声が聞こえる」としみじみと語った。

 また、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃に触れ、「あの残骸を見ると、私は胸が痛む」と嘆いた。

 最後に「お先に」「どうぞ」などと譲り合う「茶の精神」を紹介。こうした気持ちが人の和を育むと信じていることから「戦争のない、本当に心豊かな世の中になる」とその実践を訴えた。

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