菅谷大岳刑事部長(左)から登録証を受け取ったボランティア=さいたま市浦和区の県警本部で

 人手不足にあえぐ国内産業にとって、今や欠かせない存在となった外国人労働者。一方で、不法残留や在留外国人による犯罪は社会で問題視されている。こうした状況を少しでも改善させようと、埼玉県警がSNS(ネット交流サービス)上の犯罪情報を見つける在留外国人ボランティア組織を全国で初めて発足させた。警察が期待を寄せる組織のミッションとは――。【安達恒太郎、田原拓郎】

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フェイスブックに投稿された犯罪情報に警告する県警組織犯罪対策2課の公式アカウント(画像を一部加工しています)=スクリーンショットより

 あるフェイスブック(FB)上のグループには、こうしたベトナム語の投稿が並ぶ。埼玉や北関東で生きる「ボドイ」たちが情報交換をするためのFBグループの一つだ。

 「『ボドイ』はベトナム語で兵士という意味。不法残留者や実習先から逃亡した技能実習生などを指す隠語として使われています」と、10年以上、日本で暮らすベトナム人男性(33)は話す。在留資格などを持たない状態で、日本でタフに生き延びる者を兵士になぞらえ「ボドイ」と呼ぶのだという。

 グループの投稿には違法性を疑わせる投稿が少なくない。「ワナで捕らえて解体した動物の肉や、銀行口座、偽造の車検シールが売られることも。住宅のまた貸しの情報も見ます。どれも違法でしょう」と男性は話す。日本で入手困難な獣肉や、自身の在留資格では正規ルートで契約・購入することが難しい品々を、こうした方法で求める人が後を絶たないという。

 男性は「日本語ができないベトナム人が困難に陥ったときに行政などではなく『ボドイ』グループなどに頼ってしまうケースが多い。ベトナム人ブローカーがボドイを対象に求人募集をし、悪い条件で仕事をさせることもある。不法残留ゆえに当事者は外部に助けを求められません」と話す。

フォーシブの登録証を受け取ったボランティアら=さいたま市浦和区の県警本部で

 県警組織犯罪対策2課によると、こうしたFBの外国人コミュニティーの一部では通帳やキャッシュカード、身分証の売買などの犯罪情報が出回っており、在留外国人への犯罪組織の浸透が危惧されるという。

 同課はこれまでも違法な情報を見つけた場合は警告を送るなどしていた。だが、摘発を避けるため、特殊な言語や省略した言い回しが使われるケースが多く、犯罪情報が含まれる投稿の発見・特定が課題となっていた。

 そこで7月に発足させたのが在留外国人によるボランティア組織、通称「フォーシブ(FRCV)」だ。「在留外国人によるサイバーボランティア」を意味する英語の頭文字を並べ、そう呼称される。現在のメンバーは県内の日本語学校に通うベトナム国籍の留学生約20人。今後、参加メンバーや対応言語を増やしていく予定だ。

 ボランティアはFB上をサイバーパトロールして、キャッシュカードや口座売買などの犯罪情報を発見・通報する。すると、同課の公式アカウントから「このページを投稿した人に警告します。日本では通帳やキャッシュカードの売買は犯罪です」などと返信し、外国語でも同様の内容で警告を送る。

 発足前、約1年間(2023年7月~24年6月)の試行期間では、警告を送った97件の投稿のうち約8割で投稿が削除されたり、新たな投稿がなくなったりするなどの効果があったという。同課の担当者は「ベトナム語ネーティブだからこそ理解できる言葉の使い方や意味がある。協力してくれるのは心強い」としている。

 7月19日に県警本部で実施された発足式では菅谷大岳刑事部長が「取り組みを通じて在留外国人の方が安全・安心に暮らせる共生社会が確立されることを祈念する」とあいさつ。登録証を受け取ったベトナム国籍のブイ・トゥイ・クィンさん(20)は「犯罪を防ぐことができれば、外国人にも日本の社会にとっても良いこと。外国人が犯罪に巻きこまれないように貢献したい」と話した。

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