ガソリンスタンド(GS)が減り続けている。国の調査によると、全国のGSはこの30年で半分以下になった。特に山間部などで減少が著しく、車なしでは生活が難しい地域にとって深刻な問題となっている。
JAが廃業しようとしたが…
「レギュラーガソリン リットル 192円」――。中国山地の広島との県境にある島根県邑南(おおなん)町阿須那(あすな)地区。7月上旬、地区唯一のGSに掲げられたガソリン価格は、全国平均を大きく上回っていた。「都市部より20円ほど高い。タンクローリーの輸送費などもあり、どうしても高くなってしまう」。運営する地域の住民団体「YUTAかプロジェクト」の松島道幸さん(76)はため息をついた。
同地区の住民は約600人で、高齢化率は6割近い。地区唯一のGSは、かつては地元のJAが運営していた。利用低迷でJAが廃業を予定したところ、地元で存続を望む声があり、同プロジェクトが2020年からJAの委託を受ける形で運営を始めた。
山間部の住民にとって、GSは自家用車のためだけでなく、草刈り機や農機具の燃料にも欠かせない存在だ。だが、外から地域を訪れる人はわずかで、GSを利用するのは遠出が難しい地元の高齢者らに限られる。GSの売り上げは年間約1200万円で、5年前と比べると約200万円減ったという。
人件費を抑えるため、営業は午前7時半~同11時と午後3時~同6時だけにして、利用者が少ない昼間は閉じている。それでも赤字は避けられず、松島さんは「売り上げが減り続けており、経営はかなり厳しい」と明かす。
GSの減少は、全国的な問題になっている。人口減少によるガソリン需要の縮小などが主な要因で、地方ほど問題は深刻だ。
資源エネルギー庁によると、1995年3月末は全国に6万421カ所あったGSは、23年3月末は2万7963カ所に減った。23年3月末時点でGSが3カ所以下の自治体は358市町村で、うち8町村は1カ所もないという。
自治体が支援制度
中山間地域を多く抱える島根県も、問題を重要視している。県が23年度に中山間地域のGSに対して実施したアンケートによると、回答した約150のGSのうち4割強が石油製品販売の収支が赤字で、「後継者がいない」も4割を超えた。さらに、10年後に「継続していない」、「(継続しているか)分からない」と回答したGSが全体の7割近くあった。
GS維持に向け、県は23年度、地下タンクの漏洩(ろうえい)防止工事など改修にかかる費用を支援する制度を創設。市町村でも、邑南町のほか、この2年で相次いで2カ所のGSが廃業して残り4カ所になってしまった同県飯南(いいなん)町も補助制度を作った。同町産業振興課の担当者は「(GSが)一つなくなり、もう一つなくなりという状況で危機感があった。毎年雪が降り積もるので、除雪車の運行にもGSは重要な存在だ」と話す。
松島さんは、03年ごろ鳥取県米子市からUターン。厳しい状況のGSの運営を続けるのは、故郷の衰退を少しでも止めたいという思いからだ。「銀行もお店もどんどんなくなっていったが、GSもそんな生活に関わる大切な施設の一つ。田舎の生活が不便になることを『仕方ない』と諦めてはいけない」と訴えた。【目野創】
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