小学校の遠足中に1年生だった女児(8)が茶の購入を希望したのに、教諭が認めなかったため帰宅後に熱中症で救急搬送されたとして、女児と両親が、学校を運営する大阪府八尾市に計220万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁で係属中だ。争点は学校側が「安全配慮義務」を怠ったか否か。学校側は女児の要望を聞き入れなかったことを認める一方、熱中症を疑うような状況はなかったと主張し、真っ向から対立している。
徒歩移動2時間超
遠足があったのは令和4年5月末。八尾市内の緑地公園まで電車も使って往復し、公園で約2時間半を過ごす行程で、往復時の徒歩での移動時間は、休憩も含め計2時間超に上った。帰宅後に高熱を出していることに母親が気づき、搬送先の病院で熱中症と診断された。
2月下旬の第1回口頭弁論で学校側は請求棄却を求めたが、次の事実関係には双方争いがない。
女児の体力面に不安があった母親が遠足前日、水筒の茶がなくなれば持参する金で購入し、女児が異常を訴えた場合は連絡するよう申し出た▽女児が遠足の帰路に茶の購入を求め、「ママを呼んでください」と担任教員に依頼した▽学校側がいずれも聞き入れなかった-ことだ。
一方で主張が食い違うのは、遠足中の女児の様子。女児側は、めまいなどすでに熱中症とみられる症状があったとするが、学校側は「熱中症を疑うような状況・状態はなかった」と強調する。
周囲の証言重要に
学校や教職員には、学校管理下での事故を未然に防止する「安全配慮義務」がある。事故に予見可能性があり、かつ事故を回避するための措置を取らなければ、「過失」があったとして賠償責任が生じうる。
裁判資料によると、学校側は訴訟までの間、遠足を通じて「(女児に)不調がないか確認する指示が適宜出され、様子が把握されていた」と女児側に説明してきた。
茶を購入させなかったのは、女児が同級生と元気に会話する様子などを十分に確認した上での判断で、母親を呼ばなかった後も、教員が女児と手をつなぐなどして様子をつぶさに確認した、とする。また「しんどい」という直接的な訴えはなかったとし、「過失はなかった」との主張だ。
学校法務に詳しい小美野(おみの)達之弁護士(大阪弁護士会)は「裁判所は、教員の職責として、どのような兆候があれば熱中症に気付くべきかを踏まえ、今回の対応の妥当性を判断する」と指摘。学校現場で起きたことは、直接的な証拠が少なく事実認定が難しい面もあり、「教員や児童の証言と、証言を支える間接的な証拠が重要になる」との見方を示す。
水分補給なぜ我慢
法的責任の有無は別として、学校側が結果的に女児に水分補給を我慢させたのは、なぜなのか。そこには学校ならではといえる事情もあった。
「(女児に)お茶を買うと、ほかの子にも次々と買うことになる。教育活動をする上でそれはふさわしくない」。校長は遠足時の対応について訴訟前にこうも説明したという。
学校活動中に現金を使うことを禁止するルールは大阪府にはないが、紛失などのトラブルを考慮すれば、確かに現金使用は一般的とはいえない。ただ、府内の学校関係者からは「遠足では予備の水分を持っていったり、大っぴらにではないが、飲料代を立て替えて購入したりしたこともある。現場の裁量で購入を認めることもありえるし、やり方はあったはずだ」との声も上がる。
女児側が訴訟にまで踏み切ったのは「学校の安全管理に警鐘を鳴らしたい」との思いがあるからだという。八尾市は今回の事案を巡る調査結果をまとめているが、公表していない。再発防止策についても、八尾市は取材に「裁判中のため答えられない」とコメントした。(西山瑞穂)
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