ハンセン病元患者の家族に対する補償法で、元患者のトートーメー(位牌(いはい))を継いだ親族の男性が対象外とされた。事実上の親子として長年過ごしてきただけに落胆は大きく、「国から家族ではないと突き放されたようで悲しい」と唇を震わせる。(社会部・下里潤)

 「まさか」-。2022年3月、国から支給は認められないとする決定を受け、男性は言葉を失った。10代で位牌を継承する決意をし、本当の親子として生活を送っていた。自身の子や孫たちも「おじいちゃん大好き」と懐き、世代を越えた絆があった。

 ただ、親族内では偏見差別を恐れ、外部に元患者の話をすることはタブー。元患者自身も「迷惑がかかる」と話し、名護市の沖縄愛楽園以外で家族と会おうとはしなかった。地元で一緒に暮らそうと提案しても、断固として首を縦に振らなかった。

 国の誤った隔離政策さえなければ「普通の家族」として暮らせたと思う。一緒にレストランへ行ったり、旅行を楽しんだりしたかったが、出かけた記憶は人里離れた海岸で弁当を食べたくらい。「世間には私の存在を絶対、話してはいけない」。そう言い残し、元患者は約10年前にこの世を去った。

 国の責任を認定し、家族への賠償を命じた熊本地裁判決から5年。国は偏見差別の解消に取り組むとするが、「本当に実態を理解しているのか」と疑問を禁じ得ない。基地問題で「沖縄の負担軽減に取り組む」と繰り返す政府の言葉と同じに映るからだ。

 「補償金が欲しくて裁判を起こしている訳ではない。国は、せめて父が生きた証しを認めてほしい」。位牌を前に、男性は目を潤ませた。

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