物流ドライバーの時間外労働の上限を規制した「2024年問題」を受けて多くの運送会社が人手不足に悩む中で、事業規模を拡大しながら安定して従業員を採用している地場の中小運送会社がある。最新の安全機能を搭載した車両の導入や研修の強化などにとどまらず、ユーチューバーとして副業で収入を得ることも認めるなど、柔軟な働き方を認め、風通しの良さを定着させたことが奏功しているようだ。
「今日は大阪支店を紹介します」。スマートフォンのカメラを手にした同社のユーチューバーが、事業所や車庫を撮影し、若手ドライバーらにインタビューする動画の模様だ。入社の志望理由や職場の雰囲気、長距離配送の仕事内容などを現場の担当者が体験を交えながら解説している。
この企業はフジトランスポート(奈良市北之庄町、松岡弘晃社長)。5年以上前から問題に向き合ってきた。同社の持ち株会社、フジホールディングス執行役員の川上泰生さん(54)によると「働き方改革関連法が公布された2018年から準備を始め、じっくり時間をかけて従業員への説明を繰り返し、新たな働き方と安全輸送を両立させる体制づくりに取り組んできた」という。
「お客様より従業員を大切にする」方針を掲げ、従業員が望む改革を積極的に取り入れた。社内に10人以上はいるユーチューバーも一例で「残業規制で収入が減る従業員の稼ぎが少しでも増えれば」と考案した。トラックの情報や会社の魅力を発信し、「ユーチューブを見て職場の雰囲気の良さが感じられた」など求人に一役買う事例も多い。
時間外労働そのものを減らす取り組みにも注力している。全国各地の中継地点でドライバーが交代する「中継輸送」を取り入れ、各ドライバーの労働時間短縮につなげた。
福岡―名古屋間の輸送で例えると、これまで1人の運転手が担っていたものを、中間地点の京都で2人目のドライバーに交代するといった仕組みだ。途中で代わることで各ドライバーの労働時間が短縮されるほか、日帰り運行も増え、事故リスクも減ったという。
仮眠スペースを運転席上部に設けたトラックも積極導入。運転席の後ろに備える一般的な仮眠スペースよりも広いため乗務員がゆったり休憩できる。さらに荷台部分の長さが従来の9・6メートルから10メートルに延びることで積載量を増やせる。従来大型トラック9台で輸送していた貨物を8台で運べるため、必要な運転手を減らせる。
こうした取り組みが奏功し、グループ全16社の従業員数はこの5年間で1200人増えて3000人超となり、定着率も上昇している。全国(沖縄を除く)にネットワークを整備し、過去5年間で70から125にまで広げた。
ドライバー不足は今後さらに厳しくなると見込まれるが、同社はその中でもさらに採用人数を増やす考えだ。店舗の新設や企業の合併・買収(M&A)を加速し、現在の車両約2800台、125事業所を、35年には5000台、200事業所に拡大する目標を掲げる。
川上さんは「少子化などを背景に採用面が厳しさを増す中、従業員の定着率を上げるためには企業側の手厚いサポートが重要。他の産業より魅力的に映るような会社を目指したい」と語る。【山口起儀】
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