商品やサービスを契約した人が新たな顧客を勧誘することで、販売組織をピラミッド状に拡大していく「マルチ商法」。契約を巡るトラブルは絶えないが、規制は限定的だ。全国ジャパンライフ被害弁護団連絡会代表の石戸谷豊弁護士に問題点を聞いた。
連載「マルチ2世」では、マルチ商法に翻弄された家庭の実態に迫ります。これまでの記事はこちら
<同時公開>
土下座して金を無心する母 マルチ商法ハマり、冷え切った家族の仲
<次回(16日5時半、2本同時公開予定)>
年収1000万超の“勝ち組”が語った「母がマルチにハマるわけ」
心操る「勧誘マニュアル」の中身 マルチ企業が会員向けに作成
――マルチ商法は違法ではないのでしょうか。
◆マルチ商法はあくまで(販売組織の)会員を増やすためのビジネスツールであり、それ自体は違法とされていません。現在は特定商取引法(特商法)で連鎖販売取引と定義されています。例えば、強引に勧誘したり、虚偽の説明をして契約を結ばせたり(不実告知)することを禁止しています。ルールを守らない事業者を規制しようという考えなので、全面禁止ではありません。
これまでマルチ組織などを相手取った訴訟を多く手がけてきましたが、そもそもマルチは代表者と一部の上位会員だけがもうかり、彼らに勧誘された会員は食い物にされる仕組みだと認識しています。経済的に行き詰まり、人間関係を破綻させ、自殺者が出るなど非常に根深い問題です。
――マルチ商法はいつから始まったのですか。
◆1970年初期に米国から日本にマルチ商法が入り、それらを規制する訪問販売法が76年に制定されました。特商法の前身です。モノの流通組織という位置づけのため、通産省(現・経済産業省)が所管し、消費者庁の発足で移管されました(経産省と共管)。立法当時は日本の産業振興のため、企業活動は自由にさせたい、必要最小限の規制にしようとの考え方が強く、悪質なマルチ組織には甘すぎる規制となったのです。
個人的には、消費者庁が2009年に創設されたとき、特商法の大きな転換を期待しました。ですが、事後的に小幅な改正ばかりにとどまっています。
――マルチ商法とねずみ講はどう違うのでしょうか。
◆人を勧誘して組織を拡大していくという構造は同じです。区別すると、マルチ商法はモノの販売を目的とし、そのうえで勧誘すると紹介料がもらえるという仕組みです。一方、ねずみ講は販売の目的はなく、人を勧誘することで配当金をもらえるなどお金を組織内で分配しているだけなので何も生産しません。人口には限りがあり、無限に勧誘できないためいずれは破綻するとして、無限連鎖講防止法で全面禁止されています。
しかし、諸外国では、両者を規制する法律を日本のように区別していません。
――消費者トラブルが長年続いています。
◆この被害は食い止めなければならない。だが、特商法は実効性がありません。行政処分で一定期間の取引を停止したり禁止したりできますが、すぐに別のマルチを始めます。このため、取り締まりが間に合いません。さらに利益はそのまま持ち逃げされ、被害者は泣き寝入りすることが多いです。刑事罰を受けても、特商法違反は罰金で済むことがあります。最高でも3年の懲役なので、初犯であれば執行猶予がつくなど抑止力に欠けています。
――海外の規制はどうなっていますか。
◆米国は日本に比べてマルチ商法への規制が厳しいです。FTC(米連邦取引委員会)が不公正な取引方法にあたると認定すれば、違法収益の吐き出しや高額な制裁金を科すなど厳しい制裁があります。業者のやり得を残さず、被害者も経済損失を一部取り返すことができるのです。しかし、日本でこれらを制度化するには時間がかかるでしょう。
まずは特商法を改正し、悪質なマルチ事業者を参入させないために、登録制を導入する必要があると考えています。国による確認・審査がなければ、連鎖販売取引を営めないようにするのが狙いです。消費者の視点に立って、より踏み込んだ法改正が求められます。【聞き手・阿部絢美】
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