2023年7月、札幌市のススキノで男性が首を切断された事件。逮捕された一家のいびつな家族関係が明かされた衝撃の初公判から1週間となります。

 謎多き事件の背景を探りました。

 長い髪を後ろで結んだ田村浩子被告(61)。茶色っぽい落ち着いた色合いの服を身にまとっていました。

 2023年7月、札幌市ススキノのホテルで男性(62)が首を切断され殺害された事件。

 浩子被告は死体遺棄と死体損壊のほう助の罪に問われています。

 「違う点や言い分はありますか」(裁判長)

 「違うと思うことがいくつかあります」(田村浩子被告)

 初公判で無罪を主張した浩子被告。

 事件の内容が明らかになる中、いびつな親子関係も白日の下にさらされました。

 「この世の地獄がここにある」(田村浩子被告)

 起訴状などによりますと、娘の瑠奈被告(30)がホテルで男性を殺害。頭部をキャリーケースに入れて自宅に持ち帰り刃物で傷つけたとされています。

 夫で精神科医の修被告(60)は、瑠奈被告とのこぎりを購入するなど、殺人ほう助などの罪で起訴されています。

 なぜ親子3人がかかわる凄惨な事件が起きてしまったのでしょうか。

 これは浩子被告の初公判で明らかになった内容です。

 瑠奈被告は小学2年生ごろから学校を休みがちになったといいます。

 18歳には自宅に引きこもるようになり、自殺未遂を繰り返すほか「瑠奈」という人格は死に、代わりに複数の人格がいる妄想に取りつかれます。

 そのため浩子被告は「瑠奈」と呼べずに…

 「お嬢さん」(田村浩子被告)

 瑠奈被告の精神状態を不安定にさせない。浩子被告らはできる限り希望を叶え、瑠奈被告のものに触らないようにしたといいます。

 そのため、3階建ての家の中は瑠奈被告の物やごみで溢れ、足の踏み場もない状態でした。

 逮捕当時、浩子被告の義理の父親は、孫の瑠奈被告について…

 「孫(瑠奈被告)はどちらかと言えば人付き合いが悪い。多分、自分の意思に合わなかったら、拒否する方だから」(浩子被告の義父)

 浩子被告は、2階リビングのわずかなスペースで生活し、夫・修被告の居場所はなくネットカフェなどで寝泊まりを続けていました。

 また浩子被告は日々、瑠奈被告の機嫌を伺い、欲しいものや食べたいものを修被告に逐一伝えて届けてもらう日常を送っていました。

 そんな浩子被告に瑠奈被告は…

 「あんたもそのくそアマもよ、どっちもよ。熟女系の風俗にでも売り飛ばせばいい」「とっとと売れや、そのくそアマをよ」

 さらに瑠奈被告は…

 「お嬢さんの時間を無駄にするな」「奴隷の立場をわきまえて、無駄なガソリン、お金を使うな」

 誓約書を書かせ、浩子被告らを奴隷のように扱っていました。

 検察側は瑠奈被告が家族の中で圧倒的な上位者だったと指摘し、この異常なまでの親子関係を「瑠奈ファースト」と表現しました。

 臨床心理学が専門の西山教授は…

 「この家族の中では瑠奈被告を生き延びさせる親としての究極の努力目標があった。第三者から見たら、それはずれているのではないか。間違っているんじゃないかと(思うが)。3人の世界の中で、だんだん、まひしている状態に移行したのでは」(北星学園大学教授 公認心理師・臨床心理士 西山薫さん)

 そして、そんな生活は最悪の展開を迎えます。

 「ススキノの閉店イベントで被害男性と会い、その後ホテルに」(検察側)

 2023年5月28日、1人で外出できない瑠奈被告は修被告と2人でススキノのクラブの閉店イベントに参加。そこで出会った男性と意気投合し…

 「カラオケに行く」(瑠奈被告)

 両親以外と外出できない瑠奈被告にとって、大きな前進だと喜んだ浩子被告。

 しかし、実はそこで望まない性行為を強いられていました。

 検察は瑠奈被告が男性の殺害を考えるきっかけになったと主張します。

 7月1日、再び男性と会う約束をとりつけた瑠奈被告。

 浩子被告らは2人を会わせてはいけないと考え、修被告が公衆電話から男性に電話します。

 「このあと待ち合わせ場所に行かないでほしい」(修被告)

 これに対し被害者の男性は…

 「むこうも会いたがっているわけだから」(被害男性)

 瑠奈被告本人ではなく、被害者の男性に伝えたことについては…

 「瑠奈被告が働きかけて変わってもらうのは不可能というふうに認識している。働きかけても力が及ばないんだと。恐怖心というか。そういうのに支配されていたのではないか。相手を変える。相手が行かなければ未遂に終わる。そちらの方に働きかけることを思いついたのでは」(北星学園大学教授 公認心理師・臨床心理士 西山薫さん)

 そしてその夜、事件が起きました。

 さらに、事件は異常性を増していきます。

 「おじさんの頭もって帰ってきた」(瑠奈被告)

 翌日の7月2日、浩子被告は浴室に置かれた頭部を見て深い絶望感に襲われたといいます。

 「頭部の存在を気付いたのは家に持ち込まれた後。とがめることができませんでした」(田村浩子被告)

 そして、事件発生から1週間ほどがたった7月7日、浩子被告は瑠奈被告から動画を撮影するように依頼されました。

 「助けを求める気持ちで夫に依頼しましたが、何を撮影したのか、わからなかった」(田村浩子被告)

 瑠奈被告は修被告が撮影する中、遺体を損壊。そして…

 「私の作品を見て」(瑠奈被告)

 瑠奈被告は遺体の一部を瓶に入れたり、写真を撮ったりして浩子被告らに見せつけたといいます。

 異常な環境での生活が続く中で、早い段階で警察の尾行に気づいたという浩子被告。

 「そう遠くない時期に瑠奈が逮捕されると思っていた」(田村浩子被告)

 浩子被告は警察が来るまでのわずかな時間を、これまで通り家族と過ごすことを選択したといいます。

 自宅に頭部がある状況…浩子被告は「絶望」という言葉とともに法廷でこう表現しました。

 「この世の地獄がここにある」(浩子被告)

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