矢田醬油店オリジナルTシャツを持つ矢田大典さん(左)と敦子さん=島根県安来市で2024年5月29日午後0時19分、松原隼斗撮影

 どじょうすくいの踊りで知られる民謡・安来節発祥の地、島根県安来市で、創業100年を超える老舗しょうゆ店が、金属的な大音響と強いビートで激しく演奏する「ヘビーメタル」をコンセプトにしたオリジナルのTシャツを販売し、話題になっている。しょうゆとメタルの異色のコラボは、なぜ生まれたのか。

 安来市の矢田醬油店は1920年創業。国産の大豆と小麦を使ったしょうゆを自社で醸造し、地元で親しまれている。

 Tシャツ作りを始めたのは、3代目の矢田大典さん(34)。東京都出身の大典さんは進学した東京農業大学で、実家の矢田醬油店を継ぐために同大に通っていた妻敦子さん(34)と出会い、2016年に結婚。しょうゆ店に婿入りした。

 中学時代からメタル音楽を愛していた大典さんは、「安来でも同じ趣味の友人ができれば」と思い、地元の商工会議所が主催した講座で、メタル音楽を聴きながらしょうゆやみそを使った料理を楽しむイベントを始めた。すると取り組みが口コミで広がり、話題になっていった。

 Tシャツ作りのきっかけは約3年前。大典さんの31歳の誕生日で、敦子さんが店名をメタル風のとげとげしいローマ字でデザインしたTシャツをプレゼントした。それをSNSに投稿すると、「購入したい」と声が寄せられるようになり、オリジナルのTシャツを作り始めることになった。

ガイコツがしょうゆの仕込み作業にいそしむデザインのTシャツ=島根県安来市で2024年6月7日午後4時40分、松原隼斗撮影

 デザインは、複数のガイコツがしょうゆ樽(だる)の回りで仕込み作業にいそしむイラストが定番。さらに「しょうゆの造り方を啓蒙(けいもう)したい」という大典さんの強い思いから生まれた、しょうゆの作り方をメタル風に紹介するものもある。前面には黒魔術テイストでしょうゆを仕込むイラスト、背中側にはライブのツアー日程のように英語でしょうゆ造りの工程が描かれている。

 メタルを愛するあまり、Tシャツのデザインはしょうゆにとどまらない。

 どじょうすくいの踊りをモチーフに、怪獣のようなドジョウ、三味線とざるを持ったガイコツたちを描いたTシャツも作った。さらに、鳥が大好きな敦子さんが主導し、公益財団法人・日本生態系協会(東京都)と協力し、コハクチョウ、マナヅル、トキなどをメタル風に描いたデザインもできた。

 メタル風のTシャツを販売する「メタルおしょうゆ屋さん」として話題になったことで、国内外のメタル好きが店を訪れるようになった。さらにタワーレコード渋谷店(東京都渋谷区)のイベントで自ら造ったしょうゆが販売されるなど、活動の幅は広がっている。

 「悲しい気持ちも、怒りの気持ちも、全てパワーに変えてくれる」とメタルの魅力を語る大典さん。「普段のファッションの一部として使えるデザインにこだわっていきたい」と意気込む。敦子さんも「若い方がしょうゆを買ってくださることが増えた。メタルを通じた出会いをいただいています」と話している。【松原隼斗】

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