小学館の本社ビル=東京都千代田区で2024年6月3日午後、井上知大撮影

 昨年秋、日本テレビが放送した連続ドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家、芦原妃名子(ひなこ)さんが急死した問題で、原作漫画の版元だった小学館が6月3日、特別調査委員会の調査報告書を公表した。日テレ側が「原作者の意向を代弁した小学館の依頼を素直に受け入れなかったことが第一の問題」とした小学館の報告書について、元毎日放送プロデューサーの影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)に話を聞いた。【平本絢子】

 5月31日に公表された日テレの社内特別調査チームによる調査報告書について「芦原さんの死に対する反省を第一に記すべきだった」と断罪した影山教授。小学館の報告書は「一生懸命、芦原さんを守ろうとしたことが感じ取れた」と評価する一方で、「小学館にも組織として責任の一端は必ずあった。哀悼の念は述べていたが、日本テレビ同様、責任を感じて反省しているという文言がなかったのは残念に思う」と批判した。

 報告書には「芦原氏は独立した事業者であるから、小学館の庇護(ひご)は必要としないかもしれない」という文言が記されている。そんな表現から「日テレにも共通するが、良くない意味で見守る状態が続いてしまったのではないか」と影山教授は見る。「小学館の社員個人はできるだけのことをしたと思うが、芦原さんが問題を一人で背負い込んでいなかったか、組織として守るために何かできなかったのか。そこに小学館の責任がある」と指摘する。

 報告書では日テレと異なる主張が複数見られた。「水掛け論で、自分の都合の良いように理解していないか。調査に協力してもらいつつも、実際は日テレのせいのようなことを書いていて平行線のようだった」と疑問が残ったという。一方で日本テレビも「他社に対しての『上から目線』はなきにしもあらずだったと思う。組織として原作を大切にすべきだという意識が欠けていたのかもしれない」と述べた。

 日テレ、小学館からそれぞれ報告書が出されたが、「十分に話し合いがなされなかったからこそ不幸な出来事が起こった。今回の報告書で終わりにしてはいけない」と危機感をあらわにする。「ドラマ化によりテレビ局は視聴率、出版社は売り上げ効果を望む背景があるが、エンタメの本質としては受け手を楽しませることが第一義。そこには互いの裏切りがあってはいけない」とした上で「日テレ、小学館の両社で上層部も含めて膝をつき合わせて話し合い、視聴者や読者を納得させるためにも、共同の報告書や声明を出すことが必要ではないか」と提言した。

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