能登半島地震の被災家屋から搬出された家財道具は地域ごとに集積されている。損壊家屋の解体が進むにつれ更に増える可能性がある=石川県輪島市門前町で2024年5月4日午後3時8分、奥田伸一撮影

 元日の能登半島地震から5カ月近くが経過するなか、被災地では災害ボランティアが支援を続けている。発生1週間後から石川県輪島市門前町で活動拠点の整備に携わった青森大教授の佐々木豊志さん(67)は「ボランティアの姿が見えなかったので、活動場所に決めた」と振り返り、「被災者の要望は時間の経過と共に少しずつ出てくる。中長期的な支援が必要だ」と訴える。

 佐々木さんは「ボランティア元年」と言われる1995年の阪神大震災や2004年の新潟県中越地震、11年の東日本大震災で被災者支援に従事。東日本大震災を機に野外教育関係者で設立した「RQ災害教育センター」(東京)の代表理事を務める。RQは16年の熊本地震や18年の西日本豪雨などで活動した。

1月8日に見た光景 「ここだな」直感

 「ボランティアのボの字も見当たらなかった」。佐々木さんは地震発生から1週間後の1月8日、石川県輪島市門前町を訪れた際の印象をこう語った。

石川県輪島市の門前町剱地地区

 活動場所を決めるため、RQの仲間2人と前日から能登半島を回っていた。被災者は避難所で肩を寄せ合っていた。だが、そのそばにボランティアの姿はなかった。甚大な被害が報じられた輪島中心部や珠洲市では重機を動かすボランティアらが活動を始めていたが、門前町には手が回っていなかったとみられる。

 RQは他の団体が入らない被災地で活動することを基本方針としており、佐々木さんは「(活動場所は)ここだな」と直感したという。

 つてをたどって門前町剱地地区に拠点を確保し、「RQ能登」として活動を開始したのが1月末。住民の要望の取りまとめやボランティアの割り振りを担うコーディネーターは、金沢市で野外教育に携わっていた人に委嘱した。

 5月上旬、佐々木さんは青森大の同僚や学生計5人とRQ能登の拠点を訪れ、一ボランティアとして活動した。地震発生後4カ月あまりたっていたが、民家で倒壊した壁やガラス、家財道具を搬出するなどした。RQによると、ゴールデンウイーク中のボランティアは1日25人程度。記録が残っているだけで1月の拠点開設から5月15日までに延べ約900人が活動した。

 東日本大震災発生から4カ月たったころは、宮城県気仙沼市や石巻市で、足湯や子どもの遊び場作りなど片付け以外にも複数の活動を手掛け、多い時は1日250人ものボランティアが集まっていた。佐々木さんは、二つの被災地に関わるボランティアの数や関わり方の差が、発生4カ月後の活動内容の違いにも現れていると指摘。「能登では少人数かつ被災者一人一人のペースに合わせて作業を進めている。一方、東日本大震災時は多くの人が参加したため、作業が加速し、活動の幅も広がった」と話す。

思い描く雇用創出

 今後の復興に向けた取り組みとして思い描いているのは、地域のなりわいづくりだ。

青森大教授の佐々木豊志さん。RQ災害教育センターの代表理事として地震発生1週間後に能登半島を訪れ、活動場所の選定に当たった=青森市で2024年5月13日午後5時10分、奥田伸一撮影

 活動拠点を置く門前町剱地地区の近くには、江戸から明治時代にかけて北前船の船主や船員の居住地として栄え、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された天領黒島地区があり、観光地としての可能性を秘める。日用雑貨品の製作・販売などのように、少ない資本と限られた人手で可能な「手仕事」によって雇用を創出できないかとも考えている。

 「被災者の要望は一斉に寄せられる訳ではなく、ボランティアとの信頼関係が深まる中で少しずつ表に出てくる。被災地や被災者が自立できるよう息長く支えたい」。佐々木さんはこれからも現地と連絡を取り合いながら、仲間と知恵を絞るつもりだ。

今後は人手がさらに必要に

 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)によると、能登半島地震の被災地には5月5日までに311の民間団体が入った。全国社会福祉協議会(全社協)のまとめでは5月16日までに延べ約8万8800人が災害ボランティアとして活動。発生直後の1月は6000人あまりにとどまったが、2~4月は毎月2万人超が参加している。この他、団体や社協を通さずに活動している人もいる。

 現地で活動するRQ能登のコーディネーター、醍醐陸史(あつし)さん(36)は、今後について「損壊家屋の公費解体が本格化すると、解体前に室内や家財道具を片付けるボランティアが更に必要になる」とみる。だが被災から5カ月近くがたった現在、住民からRQに寄せられる要望に応えるには1日10人のボランティアが必要な現状に対し、数人しか集まらない日もあるという。

 醍醐さんは「多くの人に協力してもらえるよう現地の状況を発信する必要性を感じている」と話す。【奥田伸一】

ささき・とよし

 盛岡市出身。筑波大卒業後、在京テレビ局の関連会社で13年間、野外教育事業に従事。1996年に宮城県栗原市にくりこま高原自然学校を設立し、自然体験学習やエコツアーを開催。RQ災害教育センターには2011年の設立から関わり、13年から代表理事を務めている。17年から青森大総合経営学部教授。専門は野外教育。

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