[心のお陽さま 安田菜津紀](28)

 「子どもが入管問題に興味を持って、夏休みの自由研究のテーマにしようとしたのに、先生に“難しい問題だから”と却下されてしまいました。こんな時に、子ども向けの本があったら…」。そんなメッセージをSNS上で受け取ったのは、2年前のことだった。

 その年、名古屋入管でスリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったことが大きく報じられ、「こんなことが起きているなんて初めて知った」という声が私の周囲でも相次いだ。これまで入管収容施設に押し込められてきた叫びが、ようやく外へと届き始めたのだ。

 入管行政の問題は施設内部だけに留まらない。いるのに「いない」かのように扱われてきた難民申請者、社会保障から排除されてきた人々の存在を、子どもも大人もより深く知る一冊を作らなければ-。そんな思いから、文筆家・イラストレーターの金井真紀さんのイラスト・エッセーと共に、児童書『それはわたしが外国人だから?-日本の入管で起こっていること』を刊行した。

 この本で大切にしていることが二つある。一つは、人権は何かの「対価」として与えられるものではない、ということだ。現在の日本社会は多くの外国人労働者に支えられているが、「役立つ人だから守ってあげよう」は人権に根差した考えとは言えない。それは簡単に、「役に立たない人間は帰れ」に反転するからだ。

 もう一つは、大きな主語で人をくくり、レッテルを貼ったり切り捨てたりしない、ということだ。特定の国籍や民族の人が何か「悪いこと」をしたとき、あるいは国家が何か不正義に走ったとき、そこにルーツを持つ人々を「悪」と一色に塗りつぶして排除の対象にすることは差別にあたる。

 人間は誰しも、「間違ったこと」をしてしまうことがあり、それによって罰を受けることもあるかもしれない。多様な隣人と暮らす中で、必ずしも「仲良くできる」相手ばかりではないだろう。ただ、どんなルーツや背景の人であれ、「人間として扱わない」ことがあってはならないはずだ。この本が、そんな前提を社会で共有していくきっかけになれば嬉(うれ)しく思う。

(認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)=第3月曜掲載

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