ふ化したばかりのウズラのヒナ=北海道室蘭市で2020年2月26日、竹内幹撮影

 中華料理屋や串揚げなどの食材に使われるウズラの卵が高騰している。円安や餌代、輸送費の高騰が主な要因だ。生産コスト上昇のほかにも学校給食で児童が卵をのどに詰まらせて死亡する事故が起きるなど養鶉(じゅん)業界を取り巻く環境は、かつてないほど厳しい。生産業者からは「このままでは業界が衰退してしまう」という声が聞こえてくる。【庄司哲也】

 群馬県高崎市の「高崎クエイル」は約65万羽を飼養し、市販のウズラの卵の約2割を占める国内有数の養鶉業者。串田幹雄社長は「卵の価格は確かに上がっているが、餌代や物流費など生産コストの上昇分を吸収しきれていない」と、経営を取り巻く厳しい現状を打ち明けた。

 東京都中央卸売市場の統計では、2020年3月のウズラの卵の平均価格は1キロ当たり419円だったのが、24年3月は同978円と倍以上に高騰。特に22年以降に価格が急騰している。日本最大の生産地の愛知県の豊橋養鶉農業協同組合によると、豊橋市場では22年3月は1箱(30個入り)が約230円だったが、現在は280円ほどになっている。

 餌の穀物も上がっているが、卵を産ませるために餌に混ぜる魚粉の値段の上昇が顕著だ。20年の輸入魚粉の価格は1キロ当たり145円だったが、23年は229円になった。円安に加え、カタクチイワシの主要産地だったペルーの不漁が高値を招いている。串田社長は「ほかにも光熱費が高騰し、物流の『2024年問題』で輸送コストも増している」と説明する。

養鶉業界を取り巻く厳しい環境に危機感を募らせている高崎クエイルの串田幹雄社長=群馬県高崎市内で2024年4月18日午後3時4分、庄司哲也撮影

 物価高に加え養鶉業界に衝撃を与えたのが、2月に福岡県みやま市で学校給食のウズラの卵を喉に詰まらせ小学生が窒息死したとみられる事故。全国の自治体で学校給食へのウズラの卵の使用を控える動きが広まった。

 農林水産省によると、23年の国内のウズラの飼養羽数は約446万羽。100羽以上を飼養する農家も49戸だ。10年の約520万羽、96戸に比べて戸数はほぼ半減している。ただ、100羽程度では事業として成り立たないため、生産業者となればさらに限られる。

 円安や生産コスト増など厳しい環境が長期化し、養鶉業全体がさらに縮小してしまう事態を串田社長は懸念する。高崎クエイルでは、業界の縮小でノウハウの継承や人材育成が必要だと考え、特別な技能が必要なウズラの雌雄を見分ける鑑別士を自前で養成している。串田社長は「ウズラを家禽(かきん)化したのは日本が最初といわれる。このままでは伝統的な日本のウズラ産業を維持することが困難になってしまう」と危機感を募らせる。

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