原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、九州電力玄海原発が立地する佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は10日、記者会見を開き、選定の第1段階となる文献調査を受け入れる意向を表明した。既に調査受け入れを求める請願を採択している町議会の判断に配慮した格好で「町の取り組みが国民的議論を喚起する一石になれば」と述べた。調査受け入れは全国3例目で、原発立地自治体では初。
町では、今年に入って町飲食業組合など町内3団体が「最終処分場は新たな産業振興策の一つ」などと調査受け入れを求める請願を町議会に提出。町議会は4月26日に賛成多数で請願を採択した。経済産業省は5月1日、町に対し文献調査実施を申し入れていた。
非公開の町議会全員協議会で町議に意向を明らかにした後に会見に臨んだ脇山町長は「町議会で請願が採択されたことは重い」と述べる一方、「なし崩し的に最終処分場になることはない」と強調。文献調査受け入れで最大20億円が国から交付されるが「お金目当てではない」とした上で「日本のどこかに適地が見つかるための呼び水となったらありがたい」と語った。
町の決定を受け、岸田文雄首相は「最終処分地の選定は必ず解決しなければならない課題だ。今後とも最終処分に関する理解や議論が全国で深まっていくように、国として前面に立って取り組みを進めていきたい」と述べた。斎藤健経産相は「心から感謝と敬意を示したい。国家的な課題について社会全体で議論を深めるうえで重要な一石を投じるものだ」と評価した。
最終処分場は、使用済み核燃料を再処理した後に出る廃液をガラスで固めた高レベル放射性廃棄物について、地下300メートルより深い地中に閉じ込める施設。人が近づいても安全なレベルに放射線量が低減するまで数万年以上かかるとされる。
選定調査は3段階で次の調査に進むためには知事の同意も必要だが、佐賀県の山口祥義(よしのり)知事は「一貫して申し上げている通り、県として新たな負担を受け入れる考えはない」とコメントした。
原子力発電環境整備機構(NUMO)は2002年から調査を受け入れる自治体を募り、複数から候補地を絞りたい考えだが、これまで調査を受け入れたのは、いずれも北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村のみ。長崎県対馬市では23年、市議会が調査受け入れを求める請願を採択したが、市長が受け入れを拒否した。【五十嵐隆浩、森永亨、池田直、高橋由衣】
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