ロックからジャズまで、幅広い音楽ジャンルに欠かせないギターやベースといった楽器の中古市場が拡大している。価格もコロナ禍前に比べて上がり続け、中古が新品時の定価を上回る例も珍しくない。米国でのギター需要の急増などが波及したとみられ、関係者からは「まるでバブル」との声も聞かれる。(高田みのり)

ギターの価格高騰について話す森田さん。手にするギターには希少木材「ブラジリアンローズウッド」が使われている

◆「3~4割なら値上がり幅はまだ小さい方」

 多くの楽器店が立ち並び、楽器の街としても知られる東京・御茶ノ水。楽器や関連用品を販売するイシバシ楽器御茶ノ水本店で、セールスマネージャーの森田将互さん(41)が口を開いた。「コロナ前比で3~4割高くなった程度であれば、値上がり幅はまだ小さい方。例えばこれなんか以前は40万円。ある意味まさにバブルです」。指さしたギターには、63万円の値札がついていた。

名門ギターメーカー「フェンダー」製の中古品も、コロナ前に比べて軒並み値上がりしている

 ギター愛好家で15年ほど収集しているさいたま市のITエンジニア、大山裕貴さん(32)も値上がりを実感する一人。4年前にほぼ新品状態の中古ギターを11万円で購入したが、最近はその同モデルが、どんなに状態が悪くても20万円をくだらずに出回っているのを見かけるという。「購入のハードルは上がっている」と本音を漏らした。

◆コロナで巣ごもり特需、アニメの影響も?

 変化のきっかけとなったのはコロナ禍という。各国でロックダウン(都市封鎖)が相次ぐと、いわゆる”巣ごもり特需”として、特に米国でギター需要が急増。各国の市場調査データなどを提供する統計調査プラットフォーム「スタティスタ」(ドイツ)によると、米国でのギター販売本数は2019年の約274万本から21年には過去最高の334万本へ大きく伸びた。  多くの名門ギターメーカーを抱える米国での需要増は日本にも波及し、イシバシ楽器でも品薄状態になったことも。さらに日本ではバンドを題材としたアニメの影響などから需要が拡大。需給バランスが崩れた上、木材の需給が逼迫(ひっぱく)して価格が上がる「ウッドショック」やウクライナ戦争による燃料高なども影響したとみられる。

◆「5年、10年後を想像しながら買う楽しみも」

 経済産業省によると、20年5月に3億3400万円だったギターの月間販売金額は、23年4月には8億4200万円にも達した。中古市場拡大に伴って買い取りも急増し、イシバシ楽器では23、24年における買い取り総額がいずれも前年同時期比の20%増で推移。自宅に眠っていた楽器を持ち込み、思わぬ買い取り額に驚く客もいるという。

店内に並ぶ中古ギター。40~50万円の価格帯を中心に、最高約300万円のものも扱う

 一方、各メーカーは生産国を変えるなどして、比較的手ごろな価格帯の商品製造も継続。価格高騰による楽器離れへの懸念にも一策を講じている。回復を通り越し、急拡大中の楽器市場。森田さんは「ぜひ5年、10年後の価格を想像しながら買う楽しみも味わってみてほしい」と話した。 

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