日銀は年4回、金融政策決定会合にあわせて展望リポートを公表する(写真は日銀本店)

日銀は30日、4月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)の全文を公表し、追加利上げの判断で重視する基調的な物価上昇率の分析結果を示した。これまでの円安などによる輸入価格の上昇に伴って進んだ賃上げが物価を押し上げていることから「物価の基調が高まってきている」との見方を盛り込んだ。

展望リポートは金融政策決定会合にあわせて年に4回公表する。基本的見解を決定会合の当日に発表し、背景説明を含む全文を翌営業日に公表している。

植田和男総裁は「基調的な物価上昇率が見通しにそって2%にむけて上昇すれば政策金利を引き上げる」と話してきた。現下の円安の進行で輸入物価がさらに上昇し、一段と賃上げが進めば追加の利上げを判断する材料になる。

今回の展望リポートで、今年の春季労使交渉(春闘)を背景に「企業の前向きな賃金・価格設定が広がっている」と明記し、物価と賃金の好循環が強まっているとの認識を強調した。

人件費の比率が高いサービス価格の上昇率は2010年代前半は7割の品目で0%だった。24年3月は6割前後の品目で「2%以上」に分布していた。サービス価格のうち教養娯楽や人件費率が高い品目で「人件費を転嫁する動きが広がっていることがうかがえる」とも記した。

物価の基調動向については大きく3つの分析手法を挙げた。例えば、消費者物価から一時的な変動の影響を受けにくい「低変動品目」を抽出したところ、過去25年程度、0%前後だったが、このところ緩やかに上昇し、1%程度まで高まっていた。

期待インフレ率を日銀が集約した指標も1年後、3年後、5年後、10年後のいずれも現状は1.5%程度で「ピーク圏で推移している」と評価した。インフレ率や長期インフレ率、賃金上昇率などを変数にした経済モデル分析でも1%超〜1.5%程度を示した。

日銀は各指標からおおむね1%台前半から1%台半ばまで幅をもって示しつつも、「捕捉は容易ではない。企業からのヒアリングも含めて総合的に捉える必要がある」と曖昧さを残した。

個人消費の先行きや、2016年から24年3月まで続けた長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)が長期金利にどのような影響を及ぼしたかについても分析した。

個人消費に関し、政府は4月の月例経済報告で「持ち直しに足踏みがみられる」と弱さを指摘したものの、日銀は「緩やかに増加していくとみられる」と評価した。

家計へのアンケート調査で、先行きの所得が改善するとの見方が強まると、足元の消費を押し上げる効果が確認できるためだ。株価の上昇が「資産効果」を通じて消費押し上げに作用するとも言及した。

イールドカーブ・コントロールについては試算を通じて「おおむねマイナス1%程度の長期金利の押し下げ効果がみられたと示唆された」と指摘した。日銀が国債を大規模に保有することで長期金利を押し下げる「ストック効果」が中心という。

日銀は3月にイールドカーブ・コントロールを解除したものの保有国債は当面、高水準で推移すると見込まれることから「ストック効果を中心に長期金利の形成に作用し続けることになる」との認識を示した。

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