北大東空港から南大東空港へと向かうDHC-8-400CC型機=3月18日、沖縄県北大東村(大竹直樹撮影)

飛行時間わずか約7分-。沖縄本島から東に360キロほど離れた南大東島と北大東島を結ぶ「日本一短い航空路線」が7月末の運航を最後に廃止される。8月以降、両島間の航空機での移動は700キロ以上も遠回りしなければならず、地元では観光への影響を懸念する声も出ている。プロペラ機が1日に片道1便だけ飛ぶローカル路線ながら、高い利用率を誇る離島の生命線。直線距離約13キロの最短航路はなぜ姿を消すことになるのか。

離陸後7分20秒で着陸

「10分と短い時間ではございますが、ごゆっくりお過ごしください」

北大東空港の滑走路を飛び立った50人乗りのプロペラ機。南北の大東島を結ぶ便でしか聞けないキャビンアテンダントの機内アナウンスだ。

窓外に紺碧(こんぺき)の海が見えると、離着陸に使うランディングギア(降着装置)のタイヤが胴体に格納された。気象条件が良ければ有視界飛行となり、ほぼ直線のコース。視界不良の際は計器飛行になるため、約63キロの大回りコースをたどる。

窓外には紺碧の海が広がっていた=3月18日、沖縄県北大東村(大竹直樹撮影)

時刻表上でのフライト時間は20分だが、この日、タイヤが格納されていた時間は4分だった。

シートベルト着用サインは点灯したまま。当然、飲み物の機内サービスもない。上昇したかと思うとすぐに着陸体勢に入り、北大東空港を離陸してから7分20秒ほどで太平洋に浮かぶ絶海の孤島、南大東島の空港にランディングした。

航空業界では「クリティカル・イレブンミニッツ」という言葉がある。離陸時の3分と着陸時の8分を合わせた11分間に航空機事故が最も起こりやすく、「魔の11分」とも呼ばれるが、日本の最短航路は通常の着陸の際の8分にも満たない飛行時間なのだ。

利用率は高いのに…

離島路線を運航する琉球エアーコミューター(RAC)によると、この路線が開設されたのは平成9年10月。沖縄本島の那覇空港を基点に北大東島、南大東島を経由して再び那覇へと戻る三角形のルートで、片道だけの運航だ。曜日によって逆回りのコースをたどる。

使用される機材はDHC-8-400CC型機。機種名の末尾にある「CC」はカーゴコンビの略で、貨客混載であることを示している。

RACの担当者は「沖縄の物流を考えて、世界に5機しかない特別仕様になっている」と誇らしげに語った。通常は定員70~80人乗りの機材だが、特別仕様の機材は客室を定員50人とし、貨物室のスペースを広げて生鮮食品などを運んでいるという。

南大東島の製糖業の取材のため、筆者が搭乗したのは3月の平日だった。ほとんどの席は埋まっていたが、沖縄の離島路線にしては珍しく、観光客の姿はまばら。多くは用務客のようだった。

全国で需要が落ち込んだ新型コロナウイルス禍でも、南北の大東島を結ぶ航路は高い利用率を維持。北大東村の担当者は「需要が多く、飛行機(の席)が全く取れないときがある」と語る。

ことほどさように需要はあるのに、なぜ7月末で運航を終了することになったのか。

RACは「乗り換えなしの直行便とすることで、座席数を増やすことにした」と説明する。

廃止されるのは三角形を描くように経由地をたどる「三角運航」で、南北の大東島と那覇空港はそれぞれ直行便で結ばれる。南大東島は1日1・5往復から2往復に、北大東島は0・5往復から1往復に増便となり、その分、利用できる座席数も増えるというわけだ。

これまでの三角運航では経由地の空港で必ず乗り換えを強いられた。

これが8月以降、直行便になると解消される。那覇からの所要時間は30分~1時間程度短縮されるため、RACは「島と那覇のパイプが太くなる」とメリットを強調する。

観光客の足は遠のく?

ただ、南北の大東島間の移動は不便になる。北大東村の担当者は「南北の大東島を巡る観光客がいたが、単独便(直行便)になったら、それができなくなるので、観光客の足が遠のくのではないか」と話す。那覇を経由することで航空運賃もだいぶ割高になることも懸念材料だ。

両島を結ぶフェリーはあるが、週1便。しかも、断崖に荒波が押し寄せる島ではフェリーが接岸できず、乗客はクレーンでつり上げらたゴンドラに乗って上陸する必要がある。

両島を最短距離で結ぶ空路の廃止で、観光客の回遊性が低下する恐れがあり、両島で連携する観光プロモーションにも暗い影を落としている。

もっとも、地元住民の両島間の移動はあまりない。冠婚葬祭などで利用する人がたまにいる程度だったという。このため、南大東村は「メリット、デメリットは発生すると思うが、現時点では影響の度合いについては実情が分からない」と静観している。

RACも厳しい経営環境の中で限られた機材をやりくりしている。那覇との往来は便利になるものの両島間を結ぶ便が廃止されることについて、同社の担当者は「苦渋の選択だった」と明かす。

「ハーベスタ」と呼ばれる巨大な収穫機がバリバリと音を立てながら刈り取り作業をしていた=3月20日、沖縄県南大東村(大竹直樹撮影)

一面のサトウキビ畑

南北の大東島は「砂糖の島」として知られる。サトウキビの収穫期を迎える12月~翌年3月の繁忙期は甘い独特な香りが島全体を覆う。

南大東島で1日2千円のスクーターを借り、見渡す限り一面のサトウキビ畑を見ながら走ると、「ハーベスタ」と呼ばれる巨大な収穫機がバリバリと音を立てながら刈り取り作業をしていた。

シュガートレインを牽引していた蒸気機関車の保存車両=3月18日、沖縄県南大東村(大竹直樹撮影)

沖縄の離島に鉄道があったというと意外に思われるかもしれないが、南大東島には約40年前までサトウキビを運ぶ「シュガートレイン」が走っていた。その線路の一部が今も残っていて、機関庫を転用した倉庫や蒸気機関車とディーゼル機関車の保存車両も展示されている。筆者と同じ鉄道愛好家の皆さんにはぜひ一度、ご覧いただきたいものだ。

地殻変動で真っ二つに裂かれた「バリバリ岩」=3月20日、沖縄県南大東村(大竹直樹撮影)

島には東洋一の美しさと称される鍾乳洞「星野洞」や地底湖、地殻変動で真っ二つに裂かれた「バリバリ岩」など見どころも少なくない。夜には満天の星空も広がる。

日本一短い空の旅が楽しめるのは、あと約3カ月。これから始まる5月の大型連休などに絶海の孤島を訪れてみてはいかがだろうか。(大竹直樹)

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