7月、品川区の泰信製作所で、メタル三味線プロジェクトの会議に集まる町工場の経営者ら
◆木の三味線と比較しても、決して高くない
金属で作る「メタル三味線」の開発プロジェクトには、大田区の工業団体「大森工場協会」に所属する町工場26社が参加する。目指すのは量産品ではなく、「プロ奏者に合わせてカスタマイズした一点物」(林田さん)。四角の胴体と棹(さお)を「精密板金」の技術で作る。小さな部品の形状も、組み立て式の構造も、木の三味線とほぼ同じだ。メタル三味線プロジェクトを推進する泰信製作所の林田社長(右)
小さな部品を精密に加工する技術がなければ、プロ奏者の要求に応えるのは難しい。今年5月と8月、演奏会でメタル三味線を披露したプロ津軽三味線奏者の山影匡瑠(まさる)さんは「これまでとは全く別の新しい楽器。自分の演奏しやすい音に近づけてもらっている」と話す。1棹120万円以上。日本舞踊の師範でもある林田さんは「木の三味線と比較しても、決して高くない」と強調する。◆町工場の数は最盛期に比べて3分の1に
泰信製作所は、戦後間もない1945年に林田さんの祖父が創業。精密板金加工が強みで、バイクのレース用部品や試作・開発用の部品製作を担ってきた。林田さんは2014年に3代目の社長に就任。大学卒業後に大手企業に勤めていた経験を生かし、会社の組織力向上にも努めた。 日本の製造業が追い求めてきた「安くて品質の高い製品」の土台には、町工場など中小企業の努力がある。大田区や品川区では経営者の高齢化や後継者不在で廃業する町工場も多く、企業数は最盛期に比べて3分の1に減った。原材料費や人件費の高騰も経営に追い打ちをかけている。部品の形状は津軽三味線(右)とほとんど変わらない
◆品質良い製品の適正価格示したかった
一方で、淘汰(とうた)の波を乗り越えて今に存続していることは、高い技術力を持つことの証明とも言える。「技術と発想とスピードに強みを持つ町工場が集まれば、作れないものはない」と林田さん。「三味線という誰にでもわかりやすいものを作ることで、品質の良い製品にどれだけのコストがかかり、適正価格がどれくらいなのかということをあらためて示したかった」。今後も、町工場が結集するさまざまなプロジェクトを仕掛けることで、横のつながりを深めていくつもりだ。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。