スタートアップ(新興企業)で働く人を対象にした新しい健康保険組合「VC(ベンチャーキャピタル)スタートアップ健康保険組合(VC健保)」(千代田区)が6月、発足した。理事長の吉沢美弥子さん(32)に、設立に至った経緯を聞いた。(畑間香織)
VC健保設立の経緯について話す吉沢美弥子さん=千代田区で
◆コロナ「職域接種」で見えた課題
きっかけは2021年6月、新型コロナ感染拡大を受け、政府が従業員千人以上の企業を職域接種の対象とすると発表したことだった。当時、新興企業に投資するVCの社員だった吉沢さん。投資先の金融IT企業から「1000人以上集めて職域接種できないか」という打診を受けた。すぐに投資先などに呼びかけ、VC45社と投資先の新興企業1100社で働く約2万人の合同職域接種を実現した。2021年、新興企業で働く人を対象に新型コロナワクチンの職域接種を実施した会場(VC健保提供)
吉沢さんらはボランティアで受け付けなど会場運営を担った。一方、同じビルに入居する大企業は、職域接種を組織的に手際よく進めていた。「大企業と比べ、新興企業は健康面の支援体制に差がある。持続可能な形でできないか」。仲間と健保設立を検討し始めた。◆4カ月で197社が加入
会社員向けの公的医療保険は、単一企業または同種同業など複数の企業が設立する健保組合、健保組合のない企業を対象とした全国健康保険協会(協会けんぽ)がある。新興企業は大企業のように単独で健保組合をつくれず、複数の企業による健保組合にも赤字を理由に加入できないことが多い。 このため、多くが協会けんぽに加入する。ただ、協会けんぽは全国平均10%(24年度)と保険料率が高い。加入者の多い中高年層向けの生活習慣病予防策に重点が置かれていることも、吉沢さんらは課題と考えた。6月に設立されたVC健保理事長の吉沢さん(中)=千代田区で
VC健保は保険料率を8.98%に抑え、20~30代の多い新興企業の実情に合わせ、子宮頸(けい)がんや乳がんなど婦人科検診の補助を充実させた。加入要件はVCと、VCから出資を受ける投資先。10月1日時点で197社が加入し、被保険者と被扶養者は計1万1405人に達した。◆看護師志望からベンチャーキャピタルへ
看護師を目指して慶応大看護医療学部に入学した吉沢さん。留学先の英国で医療保険制度を学び、制度を支える新興企業に関心を抱いた。看護師にはならず卒業した17年から23年3月までVC2社で働き、医療や介護、福祉などヘルスケアの新興企業に投資してきた。 今後はパワハラやセクハラ防止規則を新興企業に提案し、傷病手当金などの電子申請化に取り組む。「会社と従業員両方に働きかける健保だからこそできる健康増進をしたい」
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