好きな人や物事をさまざまな形で応援する「推し活」が、若者を中心に急速に普及拡大している。推しの対象はアーティスト以外にも広がり、自分のイチオシを応援するための「推し活グッズ」も多様化する。専門家は「SNS(交流サイト)の発達など時代がフィットし、推し活文化を育ててきた。企業にとってはまさに商機で、今後も市場は伸びる」と予想する。(高田みのり)

 推し活 好きな人やモノ、コトをさまざまな形で応援すること。関連イベントへの参加や関連商品の購入、グッズの持ち歩き、「推し」の誕生日祝いなど、さまざまな行動の総称。「推し」は「イチオシ」に由来するとの説もあり、その対象は芸能人やキャラクター、鉄道や建築、動物など人間以外にも広がっている。「オシノミクスレポート」によると、日本では3人に1人が「推しがいる」と自認。可処分所得のうち推し活に費やす割合は平均37.4%で、最も高い10代女性では52.8%に達した。

◆タワレコ、全店舗に「推し活」専用売り場

店頭に並べられた「推し活グッズ」=東京都渋谷区のタワーレコード渋谷店で(平野皓士朗撮影)

 缶バッジを傷や汚れから守るカバー、中身をキラキラ光らせてみせるホログラムつき硬質カードケース…。街には今、さまざまな推し活グッズがあふれる。  音楽ソフト販売などの大手・タワーレコードは2015年、「アーティストを応援する人を応援する」をコンセプトに推し活グッズ事業へ参入した。2000年以降、CDの売り上げ枚数が減少していたことを受け、CD以外での売り上げ確保が狙いだったという。  グッズ第1弾は「銀テープキーホルダー」(税込み850円)。コンサートの演出に使われる銀テープを思い出として持ち歩ける点が人気を呼び、累計100万個超を売り上げる大ヒット商品に成長した。その後も約50ジャンルの300商品を発売し、現在は全店舗に専用売り場を展開するまでになった。同社商品部の松田ちひろさん(30)は「『推し活』という言葉になじみがなかった当時に比べ、市場の拡大をすごく感じる」と話す。

◆グッズ購入にとどまらず、「自己表現」への機会に

最近の売れ筋であるグッズのひとつ「推し活お守り」。タワーレコードは推しを意識してさまざまなカラーバリエーションを展開し(左)、3COINSでは華やかな刺繡を施す(右)など各社のアイデアが光る=タワーレコード、3COINS提供

 商品の大半を税込み330円でそろえる「3COINS」も、2017年に最初の推し活グッズ、うちわカバーを発売。当初から商品開発を担当している中田美穂さん(42)は「最初は『こんなニッチな商品が売れるだろうか』と思っていたのが、1〜2日で完売した」。年4回ペースで新商品を出す現在も、人気アイテムは月曜の発売から週末を待たずに完売するほどだ。  推し活について幅広くまとめた「オシノミクスレポート」(博報堂&SIGNING)によると、推し活をする心理も、ファン同士での交流など「体験の共有」を求める人、グッズの持ち歩きなどを通じて「生活を推しで満たす幸福感」を求める人などさまざまだ。愛知県に住む女性会社員(30)と女性美容師(41)は、「観劇やグッズの発売予定があると仕事を頑張れる。推しのおかげで家でじっとしている暇がなく、健康と友だちを手に入れた」と笑う。月に推し活に使う金額は2万〜5万円ほどだという。  推し活と現代人の消費行動について調査研究する「推し活総研」は、推し活の普及の背景にSNSの発達があると分析する。同総研の稗田愛弓さん(37)と曽根紗良さん(25)は「グッズを買うだけでなく、『これが好き』とSNS上で発信し自己表現をするようになっている」と話し、推し活が若者のアイデンティティーの一部になっていると指摘する。企業にとっては「大きなビジネスチャンスだ」と話した。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。