日銀が1日発表した短観は、大企業、中小企業ともに業況はほぼ改善した。非製造業では、原材料価格や人件費を販売価格に転嫁する動きが進み、収益が改善した。だが、価格転嫁がうまくいかず、廃業に追い込まれる中小も少なくないとみられ、優勝劣敗の傾向が強まっている。

◆「お客が値上げについてこなかった」

20年以上営んだすし店の閉店を決めた男性(一部画像処理)

 都内で20年間、すし店を営んできた男性(51)は9月に店を閉め、廃業する。コロナ後に原材料価格が高騰。1割ほど値上げをして客単価を1万円程度としたが、「お客さんは(値上げに)付いてこなかった」という。節約志向が強い中でサービス価格への転嫁はうまくいかず、「利益が出せず、自分の給料も上げられなかった」。廃業後は、経営が安定している大手飲食チェーンへの就職を考えている。  9月短観では、宿泊・飲食業の景況感は大企業で過去最高となり、中小でもわずかながら改善した。だが、より規模が小さい従業員5人以下の零細企業を中心に大同生命保険が実施した8月の景気調査(約6000社対象)では、宿泊・飲食業の業況感は大きく悪化した。

◆倒産の9割は従業員10人未満

 「無理をして人件費を上げている企業が多く、価格転嫁をするなどコストアップを吸収できなければ生き残れない」。東京商工リサーチの松永伸也情報部長は、企業規模が小さくなるほど価格転嫁に成功していない企業が多いとみる。今年1~8月期の倒産のうち約9割が従業員10人未満の中小企業で、事業売却や廃業を余儀なくされる企業は多いという。  日本全体の雇用の7割は中小企業が支えており、収益力改善という課題は石破新政権に引き継がれる。店を閉めたすし店の経営者は「大手の利益ばかりでなく、中小企業の生活をもっと考えてほしい」と大胆な支援策を新政権に求めている。(白山泉)


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