<まちビズ最前線>
 人類学者でつくる合同会社「メッシュワーク」(目黒区)と、シンクタンクの「日本総合研究所」(品川区)が、人類学の知見を生かしたコンサルティング事業を行っている。生活を共にしながら対象を調査する「参与観察」など、人類学の手法を用いて顧客に深く密着。ビッグデータや人工知能(AI)が進化する中、人間による洞察をビジネスに生かすことを模索する。(白山泉)

「よそ者のプロ」として、企業や地域の新しいニーズや課題を浮かび上がらせたいという比嘉夏子さん=目黒区で

◆「よそ者のプロ」

 「作業着を着て工場に入ったり、地域に暮らして地元の人と会話をしたりしながら、現場の人が気付かなかったことを言語化していく」  メッシュワーク共同創業者の比嘉夏子さん(45)は、トンガ王国の村に住み込んで現地の経済社会を研究していた人類学者だ。京大で博士号を取得。「日本社会をフィールドに活動したい」と、産学連携での研究を経て2022年4月に会社を立ち上げた。  企業の調査でも、従業員と時間をかけて会話し、多様で時に異質な声に耳を傾けながら、企業の経営課題などを探る。「よそ者のプロ」である人類学者が関わることで、企業や地域の新しいニーズや課題を浮かび上がらせるのが理想だ。

トンガで生活しながら現地の経済社会について研究していた比嘉さん=2019年9月(本人提供)

◆企業の文化と両立

 ヒアリングなどを主体とした効率性を重視する従来のコンサルティングに比べて、時間やコストがかかる。比嘉さんは「長期的で本質的な変容を重視しており、即効性はない。短期的な利益を求める企業の文化と両立できるかどうか」と話す。  こうした課題に対して、シンクタンクの日本総研は「アカデミックな『知』とビジネスの実践をつなぐ役割を担う」(未来デザイン・ラボの八幡晃久部長)。メッシュワークと連携して、人類学者の知見を応用した経営ビジョンの策定や研究テーマの創出、人事・組織改革などを行うコンサルティング事業を始めた。

顧客企業と地域の関係構築について現地調査を行う日本総研とメッシュワークのメンバー=今年6月、栃木県内で(メッシュワーク提供)

 日本総研は、新人研修にも人類学のフィールドワーク(現地調査)を取り入れた。効率が重視される日常業務において「見たいものしか見ていない、聞きたいことしか聞いていない、ということを体験する」(八幡氏)のが狙いだという。  デジタル化の進歩に伴い、人文科学系の研究者の重要性が認識されている。文化人類学者のジェネビーブ・ベル氏は、米インテルでユーザーが快適だと感じる仕組みを研究し、最近ではAIと人間の倫理について発言している。日本総研の八幡氏は「ほかにも社会学、哲学などの人材を集め、アカデミックの価値を社会に融合させたい」と話す。


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